解決

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・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 解決 ・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 夜、いつものように瀬崎さんから電話をもらう。 「こんばんは。」 『こんばんは。 夕凪、今日は2時間も自習だったんだって?』 瀬崎さん… 嘉人くんから聞いたんだ。 「うん。 実は、今日、保護者の方から電話があってね。」 私は今日の出来事を瀬崎さんに説明する。 「瀬崎さん、最近、誰かから好意を寄せられて ない?」 私は、御岳真奈の母の名は伏せて尋ねる。 『それって、俺のせいで夕凪が陥れられたって 事?』 「瀬崎さんのせいじゃないよ。 でも、瀬崎さんにストーカーまがいの行為を してる人がいるんじゃないかって思って。」 私は、慌ててフォローする。 『別に、最近、それっぽい事を言われた事も ないし、変わった事もないんだけど。』 どうしよう。 御岳さんだって教えてあげた方がいいのかな。 「じゃあ、密かに片思いしてるのかも。 瀬崎さんも武先生の事、ストーカーじゃ ないかって疑ったでしょ? ここの立地からして、普通は瀬崎さんが 出入りしてる事も気づかれにくいし、何より 気づいても、わざわざ学校に電話しない でしょ? 大抵、先生のスキャンダルって、ママ友同士で 噂になって、役員さんが学校に来た時に うっかり漏らして発覚する事がほとんど だもん。 私が保護者とどうこうって事が気に入らない んじゃなくて、きっと瀬崎さんと関係がある っていうのが、気に入らないんだと思う。」 『夕凪は、その電話をしたのが誰なのか 知ってるのか?』 「………うん。 でも、言えないよ? 学校にも守秘義務はあるから。 ごめんね。」 自分にストーカーがいるかもしれないなんて、気持ち悪いもん。 相手を知りたいと思うよね。 『分かった。 それは、こっちでなんとかする。 それまでは、会うのは控えよう。』 瀬崎さん… 「うん。」 『でも、電話はするよ。 夕凪の声、聞きたいから。』 「ふふっ うん。」 嬉しい。 『夕凪、ごめんな。』 「えっ? 何が?」 『俺のせいで夕凪に辛い思いをさせて。』 瀬崎さん… 「そんなの、瀬崎さんのせいじゃないでしょ。 武先生のおかげで、担任も外されなくて 済んだし、そんなに気にしないで。」 『それも、納得いかないんだよな。』 「えっ?」 『なんで、夕凪を守るのが俺じゃないんだ? 武先生だって、ストーカーじゃないって 決まったわけじゃないだろ?』 えっ!? まだ、疑ってたの!? 「武先生は、絶対、ストーカーじゃないよ。 あれから、気をつけてるけど、私の車の後を ついてくる車なんてないし、大体、武先生は そんな人じゃないもん。」 私がそう言うと、一瞬、沈黙が流れた。 『夕凪は、随分、そいつを信用してるんだな。 ほんとは、好きなんじゃないのか?』 「は!?」 呆れて物も言えない。 「なんでそうなるの? もし武先生が好きなら、今日みたいな面倒な 事になる前に、武先生と付き合ってるよ。 どんなに面倒で大変でも譲れないものが あるから、こんなに苦労してるんでしょ?」 これって、もしかして、ヤキモチ? 『ごめん…』 瀬崎さんは、小さな声でボソッと謝った。 「ううん、気にしないで。 私も、瀬崎さんの気持ちを考えないで、 いいすぎたよね。 ごめんなさい。」 『いや、俺が大人気なかったんだ。 夕凪の事になると、全然余裕がなくなって… 情けないよな?』 「ふふっ 私は嬉しいよ?」 『は? なんで?』 「ヤキモチ、妬いてくれたんでしょ?」 『くくっ そうか。 じゃあ、これからも独占欲丸出しでも いいかな。』 瀬崎さんが笑う。 「ふふっ でも、ほどほどにね?」 『ああ。夕凪おやすみ。 誰よりも夕凪を愛してる。』 「おやすみなさい。」 瀬崎さんは、なんとかするって言ってたけど、どうするんだろう? あーあ、これから2ヶ月も瀬崎さんと会えないのかぁ。 寂しいなぁ。 ・:*:・:・:・:*:・ それから、何事もなく穏やかな日々が過ぎていく。 なのに、2月の第2土曜の朝、瀬崎さんから、 『今から行く。』 と電話があった。 なんで? 私は慌てて、掃除をする。 だけど、掃除が終わらないまま、玄関のチャイムが鳴った。 「はい。」 私が玄関を開けると、瀬崎さんが笑顔で立っていた。 「夕凪、おはよう。」 「………おはようございます。」 「入っていい?」 「あの… まだ、散らかってて… 」 私がおずおすと言うと、瀬崎さんは楽し気に笑った。 「ははっ 分かってるから、気にしなくていいよ。 それとも、掃除、手伝おうか?」 っ!? 「いえっ! それは!」 「くくっ じゃ、お邪魔します。」 焦る私を横目に、瀬崎さんはうちに上がってしまった。 「なんだ。思ってたより、綺麗だな。」 えっ? これで綺麗って、どれだけ散らかってると思ってたの? 「お茶入れるので、座っててください。」 私が声を掛けると、 「夕凪は、朝ご飯食べたの?」 と聞かれた。 「いえ、まだですけど… 」 私が答えると、 「じゃあ、作ってやる。」 とキッチンにやってくる。 「えっ、あの、私は大丈夫ですから。」 と遠慮するが、 「俺が大丈夫じゃないんだ。 夕凪が空腹を我慢してるなんて、 俺が我慢できない。 だから、作らせて。」 と言って、手早くサンドイッチと野菜スープを作ってくれた。 それをコーヒーを飲む瀬崎さんと向かい合って食べる。 「それで、今日は突然、朝からどうしたの?」 サンドイッチを頬張りながら、私は尋ねる。 御岳さんの件が落ち着くまで、もう会わないって言ってたのに。 「夕凪を陥れるような電話をしてきたのって、 御岳華(みたけ はな)だろ?」 御岳華は、真奈ちゃんのお母さん。 「なんで分かったの?」 「興信所を使って調べた。」 ああ… そういう手があるんだ。 「俺が気づいてなかっただけで、尾行したり、 うちのゴミを漁ったり、いろいろしてた らしい。」 「そうなの?」 「うん。 ひどいのは、嘉人を手なずけようとしてた事。 平日は大抵、実家に行ってるから、接触 できなかったみたいだけど、それでも、何かを 取りに帰宅したりすると、お菓子を持って お裾分けのような顔をして嘉人に 取り入ってた。 母も一緒だったけど、親切なご近所さんだと 思ってたから、あえて何も言わず、その場で お返しになるものをお裾分けして返してた らしい。」 「そんな… 」 「毎回、娘を連れてきて、一緒に遊ばせようと したみたいだけど、嘉人は忘れ物を取りに 来ただけで、すぐに実家に帰るから、 遊べなかったらしい。」 そんなの、真奈ちゃんをぬか喜びさせたじゃない。 お母さんが誘ってくれるなんて、真奈ちゃんにとっては、たまにしかない嬉しい出来事なのに。 「うちのゴミを持ち帰る動画や俺を尾行する 動画を証拠として、弁護士立ち会いで 話し合った結果、今回は警察には届けない 代わりに、一切のつきまとい行為を止める 事と、無関係な夕凪への攻撃をしない事を 誓約する書類を書かせたから、もう大丈夫。 何かあったら、警察沙汰になる上に、賠償金も 請求される事は理解してるから、これ以上、 何かしてくる事はないよ。 俺が気づくべきだったのに、夕凪に迷惑を 掛けて、悪かった。」 瀬崎さんは、そう言うと、頭を下げた。 「いえ、瀬崎さんのせいじゃないでしょ。 気にしないでください。 私ももう気にしてないし。」 本当にそう思う。 今年度もあとひと月ちょっと。 最後まで担任としてみんなを2年生に送り出したい。 それが出来るだけで、私は満足なんだから。 「ありがとう。 だけど、もし、夕凪が結婚してくれたとして、 あの家に住むと、御岳華の目と鼻の先に住む 事になるんだよな。 何事もないといいんだけど… 」 「うん、そう…だね。」 そう…かぁ… それは、嫌がらせがありそうだなぁ。 だいたい、私は嘉人くんのお母さんになれるのかな。 他のお母さん達も、ちょっと前まで我が子の担任だった私を、ママ友の仲間として受け入れてくれるのかな。 授業参観や懇談に私が参加したら、今、同僚の先生方は、どう思うんだろう。 やる前から心配ばかりしても仕方ないけど、やっぱり不安だなぁ。 「でも、何があっても、夕凪は俺が全力で 守るから。 安心してていいから。」 「うん。」 そう言ってくれる気持ちが嬉しい。 だから、私も負けずに頑張ろう。 「そういえば、来週の授業参観は、瀬崎さん 来るの?」 そう、4日後に今年度最後授業参観がある。 「行くよ。 そのために秘書にも絶対仕事を入れるなって 言ってある。 なんか、縄跳びをするんだって?」 「ふふっ そうなの。嘉人くん、張り切ってるよ。」 今、1年生はみんな、授業参観に向けて、大張り切りだ。 「でも、なんで縄跳び?」 瀬崎さんは、不思議そうに首を傾げる。 「生活の授業でね、『もうすぐ2年生』っていう 単元があるの。 1年生で出来るようになった事とか 楽しかった事を発表するんだけど、それを 授業参観でやるのよ。 みんなが1年生の間に出来るようになった 事をそれぞれ発表するから、嘉人くん みたいに縄跳びをする子もいれば、たし算 カードをする子もいるし、黒板に漢字を書く 子もいるの。」 「へぇ、おもしろそう。 楽しみだな。」 瀬崎さんは目を丸くして驚く。 「うん。 子供たちも張り切って練習してるから、 楽しみにしてて。 ………ごちそうさまでした。」 そう言うと、私は立ち上がって食器を片付ける。 すると、瀬崎さんも立ち上がって私の後についてくる。 流しに食器を置いた途端、後ろから瀬崎さんに抱きしめられた。 「夕凪、好きだよ。 いい年して情けないけど、しばらく夕凪に 会えないって思っただけで、切なくて 苦しくて、自分でもどうしていいか 分からなくなった。」 瀬崎さんが耳元で囁く。 「瀬崎さん… 」 私も、瀬崎さんに会えないと思うだけで、残り2ヶ月がとてつもなく長く思えた。 瀬崎さんは、そのまま私の耳にキスをする。 「あっ…」 その瞬間、私は膝から崩れ落ちてしまった。 瀬崎さんは、慌てて私を抱きとめてくれる。 「くくっ 夕凪、耳、弱いよね?」 瀬崎さんが嬉しそうに笑う。 私は肯定も否定もできなくて、無言で俯いた。 「夕凪、かわいい。」 そう言うと、瀬崎さんは腕の中にいる私の向きを変えて、今度は唇にキスをする。 徐々に深まるキスに、意識が混濁する。 このまま流されてしまいたくなる。 瀬崎さんは、私の舌を絡めとりながら、手のひらが脇から腰に撫でるように滑り下りてくる。 抗えない私は、瀬崎さんの背中にしがみついた。 すると、瀬崎さんの手がするりと私のニットの裾から中へと入り込んでくる。 薄い下着越しに胸をまさぐられ、あられもない声が漏れてしまう。 「だめ… 瀬崎さん… 」 なんとか声に出して拒絶の意思表示をするけれど、再び瀬崎さんに口づけられ、それ以上、言えなくなってしまう。 私がされるがままになっていると、今度はスカートの中に手を差し入れられた。 私は慌てて瀬崎さんの手を押さえるが、思いのほか瀬崎さんの力は強くて、私が一生懸命拒んだところで、止められない。 下着越しに触れられるだけで、自分でも恥ずかしくなるような声が漏れる。 「瀬崎さん、ほんとに、これ以上は… お願い… 」 私が途切れ途切れ声を上げると、 「夕凪、どうしてもダメ?」 瀬崎さんが耳元で低い声で囁く。 どうしよう? そんな風に言われると、意思が揺らいでしまう。 だけど… 「ごめんなさい。今は… 」 私が自分を奮い立たせてそう言うと、瀬崎さんはようやくスカートの中から手を引いてくれた。 「しょうがないな。 俺は、夕凪のそういう融通の効かない ところも好きなんだから。 終業式まで楽しみにとっておくよ。」 えっ? 終業式の日? 確定なの? そんな事を言われたら、終業式の日を余計に意識してしまう。 どうしよう?
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