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挨拶〜神山家へ〜
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挨拶〜神山家へ〜
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その夜、私は、実家に電話をした。
明日、話があるから帰宅する事。
瀬崎さんと嘉人くんも一緒に連れて行く事。
それだけで、母は、何の話か察したらしい。
何も言う事なく、電話を切った。
翌日、私は、迎えに来てくれた瀬崎さんの車で、実家に向かう。
片道一時間のドライブ。
嘉人くんは、後ろの席で楽しそうにずっとおしゃべりをしていた。
実家に到着し、私たちは居間ではなく、仏間に通された。
座卓の前、上座に父と兄、下座に瀬崎さん、嘉人くん、私。
母は、お茶を入れて来て、間に座る。
「先日は、お正月にも拘らず押しかけて、
申し訳ありませんでした。
今日は、改めて、お願いに上がりました。」
私は、姿勢を正した。
「夕凪さんと結婚させてください。
お願いします。」
瀬崎さんが頭を下げ、私もそれに習う。
すると、キョロキョロと左右の私たちを見た嘉人くんも、ぺこりと頭を下げた。
「頭を上げてください。」
兄が言う。
「夕凪は、それでいいんだな?」
兄に問われて、私は「はい」と頷いた。
すると、父が、
「覚悟はできてるんだな。」
と確認する。
覚悟…
妻になる覚悟。
母になる覚悟。
醜聞に晒される覚悟。
「はい。」
私が答えると、父は瀬崎さんに向かって言う。
「こんな至らない娘ですが、私にとっては、
誰よりもかわいい娘です。
どうか幸せにしてやってください。」
「はい!」
瀬崎さんは迷いなく、返事をしてくれた。
その直後。
「夕凪先生は、僕が幸せにする!」
「えっ!?」
嘉人くんのかわいい宣言に、全員が一瞬息をのんで、その後、笑みをこぼした。
「ありがとう。
嘉人くんが幸せにしてくれるの?」
私が尋ねると、
「うん! 僕、夕凪先生にいっぱい優しくして
もらったから、今度は僕が優しくして
あげる。」
と真っ直ぐに見上げて言われた。
「ふふっ
ありがとう。期待してるね。」
そこへ美晴が駆け込んで来た。
「ああ! 嘉人くんだぁ!」
「こら、美晴! お客様だぞ!」
兄が美晴を窘める。
「ごめんなさい… 」
しょんぼりうなだれる美晴の姿は、なんだかかわいい。
「美晴ちゃん、こんにちは!」
嘉人くんが嬉しそうに挨拶する。
「あのね、あのね、美晴ちゃん!」
嘉人くんは立ち上がって、美晴の所へ行き、手招きして耳元で内緒話を始めた。
「ええ! ほんと? やったぁ!」
美晴は小躍りせんばかりに喜んでいる。
「嘉人、何、言ったんだ?」
瀬崎さんが尋ねると、
「僕がね、美晴ちゃんの従兄弟になるよって、
教えてあげたの。」
と嬉しそうに答えた。
瀬崎さんの妹さん夫婦には、新婚だという事もあり、まだ子供はいない。
つまり、どちらも従兄弟がいなかったのに、突然同級生の従兄弟が出来ることになったんだから、嬉しいのは当たり前かもしれない。
「みぃちゃん、
嘉人くんとお庭で遊んでおいで。」
私が言うと、
「行こ!」
と2人で外に出て行った。
子供たちがいなくなるのを見計らって、兄が言う。
「夕凪の新しい学校は同じ市内なんだろ?
人の目を考えたら、少し離れたほうが
いいんじゃないか?」
私は瀬崎さんと顔を見合わせる。
「実は、私、東京の採用試験を受けようと
思ってるの。」
瀬崎さんが事情を説明してくれる。
「夕凪、東京で子育てするの?」
母が心配そうに言う。
「うん。
瀬崎さんがそうしたいなら、私はそれを
叶えてあげたいと思う。
私には何もできないけど、せめて、足枷には
なりたくないから。」
私がそう言うと、父は、
「幸人くんは大変な事に立ち向かおうと
してるんだ。
お前は精一杯支えてやりなさい。」
と言ってくれた。
母は、まだ納得してはいなさそうだったけど、それ以上は何も言わなかった。
私たちは、お昼にお寿司と母の手料理を食べて、実家を後にした。
嘉人くんと美晴は、名残惜しそうだったが、従兄弟になるんだから、またすぐに会えると言うと、それでようやく納得してくれた。
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