夏休み初めての週末

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夏休み初めての週末

・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 夏休み 初めての週末 ・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 夏休みに入り、穏やかな日が続いている。 いや、気候的には、猛暑続きで、全然穏やかじゃないんだけど、問題を起こす子供もいなくて、日々、職員室で他の先生方と雑談を交えながら、のんびりと仕事をしている。 今日は金曜だし、残業もないし、毎日、コンビニ弁当も味気ないし、何か食べて帰ろうかなぁ。 私は2年前にこの小学校へ赴任した時から、一人暮らしを始めた。 実家から、50km離れたこの小学校は、同じ県内ではあるけれど、とても毎日通うのは不可能だったから。 だけど、子供の頃から私は食べるのが専門で、お料理はほとんどした事がない。 だから、毎日、コンビニ弁当、レトルト食品、冷凍食品、インスタント食品のお世話になりっぱなしだ。 お料理ができなくても生きていけるなんて、いい時代だなぁ。 そんな事を思いながら、のんびり仕事をする。 2学期の授業準備をするにはまだ早いし、1学期の掲示物の整理も終わったし、来週の研修の準備も終わってる。 「夕凪先生、暇そうですねぇ。」 思わず欠伸をした私を見て、武先生が笑う。 「もう、武先生! そこは見ないふりですよ! いつも変なところばかり見るんですから。」 私が口を尖らせると、武先生は「くくっ」と笑う。 「それは夕凪先生、認識の違いですよ。」 「認識の違い?」 「僕は、夕凪先生の変な所を見てるんじゃ なくて、かわいい所を見てるんです。 目が止まるのは仕方ないと思いませんか?」 は? 最近、武先生は変だ。 この前、飲みに連れて行ってもらってから、時々、こんな風にかわいいとからかってくる。 私はそんなにからかい甲斐があるんだろうか。 「くくっ 夕凪先生、顔が赤いですよ。 かわいいですね。」 っ!! 「誰のせいですか!!」 もう!! やっぱり、赤面するから、からかい甲斐があるのかなぁ。 好きで赤くなる訳じゃないのに。 もう5年も恋人がいないのがいけないのかな。 誰もかわいいなんて言ってくれないから、軽く言われた一言に反応してしまうのかも。 「夕凪先生、今夜は予定あります? 良かったらお食事でもどうですか? 奢りますよ?」 「結構です。 武先生と食事に行ったら、その間、ずっと からかわれそうですから。」 私は、ぷいっとそっぽを向いた。 「ひどい… 僕は本当の事しか言ってないのに。」 武先生が泣き真似をする。 「じゃあ、夕凪先生をかわいいと思っても 口にするのは我慢しますから、お食事いかが ですか?」 「ふふっ もう、武先生ってば!」 私は、思わず笑ってしまった。 「奢りですからね!」 私が言うと、 「はい。」 と武先生も笑う。 17時。 私たちは、学校を後にする。 行き先は、ちょっとお洒落なフレンチレストランチェーン店Accueil(アクィーユ)。 今日も「せっかくだから、ワインを飲みましょう」と武先生に言われて、車を置いてきた。 「今日は私が…」と言ってはみたが、武先生が「助手席より、運転席の方が落ち着く」と言うから。 2人で店内に入り、奥の席へ案内される。 「ほんとにいいんですか? ここ、安くないですよ?」 私は声を潜めて尋ねる。 「くくっ ご心配は無用ですよ。 これでも夕凪先生よりはお給料もいただいて ますし、扶養家族もいませんし。」 確かに、そうなんだけど… 席に着いて程なく、店員さんがメニューを持って現れた。 「あっ」 私は思わず、声を上げてしまった。 「いらっしゃいませ。 お客様は先生でしたか。」 その人はにこやかに微笑む。 「こちらのお店で働いていらっしゃったん ですね。」 「いえ、普段は本社勤務なんですが、今週は ギャルソンが夏休みなので、 応援に駆り出されてるんです。 先生はデートですか?」 「いえ、こちら、学年主任の木村武先生です。 先生、こちら、瀬崎嘉人さんのお父様です。」 私は双方を紹介する。 そう、店員さんは、嘉人くんのお父さんだった。 「そうでしたか。 嘉人がいつもお世話になっております。 うちは、デートに利用していただく方が多い ので、てっきり先生方もカップルなんだと 思ってしまいました。 失礼いたしました。 ご注文がお決まりの頃にまた参ります。 ごゆっくりどうぞ。」 一礼して嘉人くんのお父さんが下がっていく。 武先生は、それを目で追っていた。 「先生?」 私が声を掛けると、はっとしたように顔を戻して、いつものにこやかな武先生に戻った。 「夕凪先生、好き嫌いはなかったよね? コースでいい?」 「はい、構いませんけど、いいんですか?」 「もちろん。 瀬崎さんもおっしゃってたよね? ここはデートコースだって。 侘しい独身男のために、擬似デートに 付き合ってください。」 武先生はいたずらっぽく笑う。 「またまたぁ。 武先生なら、声を掛ければいくらでも女の子、 寄ってきますよ。」 「そういうのは、好きじゃないんだ。 デートは、やっぱり好きな人とじゃなきゃ。」 まぁ、確かに。 「だったら、私なんかでごめんなさい。 武先生は、好きな方、いらっしゃらないん ですか?」 「いえ、夕凪先生がいいんです。 俺の好きな人は、夕凪先生なんだから。」 またまたぁ… 「武先生、そんな事ばっかり言ってると、 いくら私でも、そのうち本気にしますよ?」 全く、武先生がこんな軟派だとは思わなかったよ。 今まで、接点がなかったから、知らなかっただけ? 「どうぞ。 俺は、本気だから。」 ほんっとに、もう! そこへ瀬崎さんがやって来た。 武先生がオーダーしてくれる。 「瀬崎さん、今日、嘉人さんは1人でお留守番 ですか?」 ふと心配になって尋ねた。 「いえ、夏休みなので、今週は実家に泊まりに 行かせてます。 あ、先生、今夜、お時間ありますか? 嘉人がいないところでご相談したい事が あるんですが…」 「今日、ですか? 時間はありますが、今日は飲むつもりで 木村先生に乗せて来てもらったので、 足がないんです。」 「よろしければ、私がお送りしますよ。 10時には上がれますから、それまで ワインでも飲んで、待ってていただけ ませんか?」 「はい… 構いませんけど… 」 「ありがとうございます。 では、また後ほど。 ごゆっくりお過ごしください。」 瀬崎さんは一礼して下がっていく。 それを見送りながら、私はなんだかうきうきしていた。 だけど、武先生は、逆に不機嫌そうだった。 「武先生? どうかされました?」 私が声を掛けると、武先生はいつもの優しい武先生だ。 「瀬崎さんの奥様もADHDらしいって 言ってたよね? だけど、お父さんは、随分、落ち着いてない?」 「そうなんですよ。 この間、礼央くんとの事があって家庭訪問 した時も、嘉人くんとの関係も良好で、 すごくいいお父さんでしたよ。」 「そんな方が、なんでADHDの方とご結婚 されたのかな。」 そうだよね。 あんなにモテそうなのに、あえてそんな面倒な奥さん選ばなくてもいいのに… 「奥様、ここでアルバイトをされてたそう ですよ。 あまりにも失敗が多くてお世話をするうちに って、瀬崎さんがおっしゃってました。」 「へぇ、そういうものですか。 まぁ、男は好きな女性を構いたくなるもの ですからね。」 「そうなんですか?」 初めて聞いた。 お世話をするのって、母性本能じゃないの? 「そりゃそうですよ。 完璧な女性より、ちょっと抜けてるくらいの 女の子の方がモテません?」 ああ!! 「確かに!!」 私の友人でも、ちょっとわがままな子がなぜかモテるなぁ。 「ま、俺はしっかりしてるように見せるために 一生懸命頑張ってる健気な子もツボなんだ けどね。」 武先生が意味あり気な視線を私に向ける。 それって、私? そこへ瀬崎さんがお料理を持ってきてくれた。 「オードブルでございます。」 うわぁ、綺麗… ワンプレートに四種のひと口サイズのお料理が並んでる。 「おいしそう…」 食べる専門の私の気分は既に最高調。 くすっ 瀬崎さんが笑った気がした。 もしかして、呆れられた? ま、いいか。 私は気をとり直してナイフとフォークを握る。 「いただきます。」 私は、お料理を頬張る。 うん、おいしい〜!! 幸せいっぱいで、あっという間に前菜を食べ終えてしまった。 その後も、スープ、ポワソン、ソルベ、アントレと続き、どれもとてもおいしかった。 こんなおいしいお店の厨房に入ってた事があるんだから、瀬崎さんのお料理がおいしい訳だ。 最後のデセール、カフェ・ブティフールもおいしくて、また来たいと思った。 だけど、この店、お一人様じゃ、入りづらいからなぁ。 「満足していただけました?」 コーヒーを飲みながら、武先生が言う。 「はい、とても。 すごくおいしくて、幸せな気分に なれました。」 「くくっ 食べてる時の夕凪先生、本当に幸せそう ですよね。」 あ、また笑われた… 「いいじゃないですか。 おいしいものは、世界を救うんです!」 「くくっ また、それは、壮大な理論ですね。」 「だって、過去の動乱も戦争もほとんどが、 貧困と飢餓から起きてますよ? 飽食は世界平和への第一歩です。」 「くくっ そうか。 じゃあ、これから、1年生の平和のために、 夕凪先生には定期的に飽食を提供する事に するよ。」 「あ、いえ、そういう訳には…」 そんなつもりで言ったんじゃないのに。 「また、デートしてくださいね。」 え? デート? これ、デートなの? あ! また、からかわれた! 「そうですね。 武先生の奢りなら、いくらでもお付き合い しますよ。」 私はあえて、動揺していないふりをした。 「それは良かった。 じゃあ、明日もデートしようか?」 「は?」 「明日、休みだよ? ドライブでも行かない?」 「え?」 あれ? からかってたんじゃないの? あ、これも、からかってるのか!! もう!! 「武先生、私で遊びすぎです。 その、冗談か本気か分からない口調で言うの、 やめてくださいよ〜」 「全て本気だよ。 俺、夕凪先生に嘘を吐いた事はないから。」 「またまたぁ。 そうやって、からかうから信用されないん ですよ。 私、男の人にあまり免疫がないんですから、 そうやって遊ばないでください。」 「全然、遊んでないんだけど。 どうしたら、信じてもらえる?」 相変わらず、武先生は飄々としている。 私だけが焦って、バカみたい。 「はいはい。 信じてますよ。 武先生は、私の事を好きなんですね。 とっても嬉しいです。」 私は、思いっきり棒読みで答える。 「じゃあ、明日、10時に迎えに行くから。」 「は!?」 「デート、するでしょ?」 何、何!? 「しないでしょ!? 武先生、悪ふざけが過ぎますよ。」 「ええ!? しないの? 残念。」 武先生がわざとらしく、しょんぼりして見せる。 「ふふっ もう、武先生とは出かけません。 武先生、私をおもちゃにしすぎです。」 「そんな事ないのに。」 食事を終えたのは9時過ぎだったけど、武先生と他愛のないお喋りをしてたら、気付けば10時になっていた。 武先生は、代行を呼んでもらい、 「お先に。また来週ね。」と帰って行った。 私は、瀬崎さんに連れられ、店から少し離れた職員駐車場にやってきた。 「どうぞ。」 と瀬崎さんが助手席のドアを開けてくれるが、何これ!? ドアが上に開いてる!? 「あの、これ…?」 私が戸惑っていると、瀬崎さんは笑う。 「先生、このタイプの車は初めてですか?」 「はい。」 「気にせず、普通に乗っていただいて 構いませんよ。 見慣れないだけで、普通の車ですから。」 いやいや、全然、普通じゃないでしょ。 それでも、そこにいつまでも立っている訳にもいかず、その車に乗り込んだ。 すると、瀬崎さんがドアを閉めてくれる。 運転席に乗り込んだ瀬崎さんは、エンジンをかけて、意外にも静かに走り出す。 「嘉人がね、スポーツカーが好きなんですよ。 スポーツカーなんて、燃費も悪いし、小回りは 利かないし、いいところなんて全然ないから 買うつもりはなかったんですけど、知り合いの ディーラーがハイブリッド車があると言って カタログを持ってきましてね。 嘉人が喜ぶならとこんな車を買って しまいました。 親バカでしょ?」 瀬崎さんは、自嘲する。 でも、嘉人くんをかわいがる瀬崎さんは、とても素敵に思える。 「先生、とりあえず、うちで構いませんか? 後でご自宅にお送りしますから。」 「はい。」 なんだろう。 ドキドキする。 こんなすごい車に乗ってるからかな。 私は、こっそり瀬崎さんを見る。 前方を見ながらも、リラックスして運転している姿が、なんだか大人の男な気がした。 瀬崎さん宅に到着したが、ドアを開けられない私は、瀬崎さんが開けてくれるのを待った。 「どうぞ。」 「あ、ありがとうございます。」 車から降りようとしたら、瀬崎さんが手を差し伸べてくれた。 これって、掴まれって事だよね? こんな事、された事ないから、どうしていいのか分からない。 私はおずおずと瀬崎さんの手に自分の手を重ねた。 だけど、瀬崎さんは、私が車を降りても手を握ったまま。 これって、どうすればいいの? 振りほどくのは失礼だよね? だけど、児童の保護者と手を繋いだ状態って、アウトな気もするし。 結局、私はどうすることも出来ずに、玄関まで手を繋いだまま来てしまった。 「すみません。 帰ったばかりで暑いですが、どうぞ。」 そう言うと、瀬崎さんは、ようやく手を離して、灯りを点けたり、エアコンを入れたりした。 「先生、コーヒーでいいですか?」 瀬崎さんが聞いてくれる。 「いえ、お構いなく。」 私が遠慮すると、 「俺が飲みたいんです。 少し、付き合ってください。」 瀬崎さんは微笑んだ。 今日はリビングのソファーに座るように勧められ、私はそこで瀬崎さんを待つ。 程なく、瀬崎さんがコーヒーを持ってやってきた。 テーブルに「どうぞ」と、コーヒーを置くと、少し間を空けて隣に座る。 「先生、すみません。」 ん? 私はコーヒーを混ぜていた手を止めて、顔を上げた。 すると、隣の瀬崎さんと間近で目が合い、慌てて逸らす。 「あの、何がでしょう?」 私はコーヒーを見つめながら、尋ねた。 「嘉人の事で相談なんて、嘘です。」 「え?」 私は、思わず、また顔を上げてしまった。 「今日、一緒だった学年主任さんと お付き合いされてるんですか?」 私は、ブンブンと首を横に振る。 「ただの同僚です。」 それがどうしたんだろう。 「よかった。 2人でいらっしゃってたから、もしかして 付き合ってるのかなと思って、嫉妬して しまいました。」 え? 「それはどういう…」 「分かりませんか? 神山夕凪さん、あなたを好きだと言う事 です。」 「え? あの…」 「初めて学校でお会いした時から、 気になってました。 でも、私は結婚してましたし、そういう感情は 持ってはいけないと抑えてました。 ですが、これは嘉人も知りませんが、妻は、 ずっと浮気を繰り返してました。 先生は気付いていらっしゃいますよね。 妻も嘉人と同じADHDだという事。」 これは、なんて答えればいいの? 「嘉人を診察してくださった先生が、 私たちにもアンケートのようなテストを 受けさせたんです。 それで、妻もADHDの可能性が高いと言われ ました。 先生もおっしゃってましたよね。 やりたい事を我慢するのが難しい、 やりたくない事を我慢してやる事も難しい って。 妻は、私が仕事にかまけてる間、いろんな男と 体の関係を持ってました。 離婚する時、セックスしたいという欲求を 我慢できなかったと言ってました。 俺は、薄々浮気に気付いていながら、嘉人の ために気付いてないふりをしてました。 だけど、その日、他の男に抱かれたかも しれない女を抱く気にはなれなくて、妻に 指一本触れない日が続きました。 それが妻を更に浮気に走らせる事になるとも 思わずに。 だから、妻が嘉人に手を上げてると分かった 事で、俺が離婚を我慢をする理由はなくなり ました。 妻がいない方が、嘉人のためになると 判断したんです。」 私は話を聞きながら、あのタメ口のお母さんなら、そういう事をしてもおかしくないと思ってしまった。 人を先入観で見てはいけないのに。 「だから、先日、先生が、私は妻を 忘れてないとおっしゃってましたが、 もうすっかり吹っ切れてます。 その上で、言います。 あなたが好きです。」 どうしよう。 心臓が壊れそうな位、鳴ってる。 断らなきゃいけないのに… この人は、嘉人くんのお父さんなのに… どうしよう… 「あの、私… 」 「返事は、春まで待ちます。」 え!? 「あなたは、今、嘉人の先生です。 きっと、今、聞いたら、断りの返事しか 返ってこないでしょう? なので、春、嘉人の担任じゃなくなってから、 返事を聞かせてください。」 「あと8ヶ月もありますけど…?」 そんなに放置していいの? 「もちろん、OKの返事なら、今すぐでも 構いませんよ? でも、立場上、それは無理でしょう? だから、8ヶ月、俺があなたを想ってる事を 忘れないでくれれば、それでいいです。 それで、時々、こうして家庭訪問して ください。 嘉人がいる時でも、 こうして嘉人がいない時でも。」 瀬崎さんの手が、私の頬に触れる。 大きくて骨張った男の人の手。 目を逸らしたいのに、見つめられるとどうしていいか分からなくて、瀬崎さんの目に吸い込まれそうになる。 瀬崎さんの顔が近づくと、私は焦って口を開いた。 「あ、あの!」 「なんですか?」 「私たち、まだ、数回しか会ってないと 思うんですけど、なんで私なんかを…」 瀬崎さんは、「ふっ」と笑みを零す。 「真面目で、一生懸命で、かわいらしくて、 守ってあげたくなるんです。 人を好きになるのは、時間でも理屈でもない と思いますよ。」 「で、でも、それは、教師としての私 ですよね? プライベートでは、違うかもしれませんよ。」 そう、私は、仕事は頑張るけど、プライベートは家事もろくにできない干物女。 「だったら、プライベートのあなたを見せて ください。 明日は、俺が家庭訪問しましょうか?」 私は思いっきり首を横に振る。 「ダメです! 私の部屋、今、すごく散らかってるんです。」 「くくっ」 と笑う瀬崎さんは、なぜか嬉しそう。 「そう、散らかってるから、ダメなんですね。 じゃあ、片付いたら、家庭訪問してもいいん ですよね?」 あ… 「いえ、あの、それは…」 「今週末、頑張って片付けてください。 来週、家庭訪問しますよ。」 ど、どうしよう… 私が返事に困っていると、ちゅっとおでこに柔らかな感触があった。 い、今のって… 「送ります。」 瀬崎さんは、そう言ってくれるけど、驚いた私は、固まってしまい、動けない。 くすっ 瀬崎さんは笑みを零す。 「それとも、泊まっていかれますか? それでも俺は構いませんが。」 それを聞いて、私は我に返る。 「か、帰ります。」 「はい。 あ、カップはそのままで。 帰ってから洗いますから。」 瀬崎さんに促されて、私はまたあの不思議なドアの車に乗せてもらい、自宅アパートへと送ってもらった。 だけど… どうしよう!?
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