5月

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「ゴールデンウィークどっか行った?」 「名古屋に行った」 「名古屋の何処」 「動物園とか、名古屋城?」 「へぇーいいな」 「俺は京都行った」 「結構遠出したんだ。良いじゃん」 「だけどさー、京都って来年修学旅行で行くじゃんね。もっと東京とか行きたかった」 「そう」 ゴールデンウィーク明け、少ないプリントを持って咲久はまたやって来た。 こう話題があると会話を繋げることが出来るのでいつもよりか楽に話せる。 話題が無くても、大体は一方的に咲久の方から喋ってくるが。 「俺、遊園地に行きたいんだよなー」 「京都にも遊園地あるんじゃないの」 「行ったっちゃ行ったけど、もっと怖いもんがある所が良い。富士急とか」 希輝は、外に出掛けるのは嫌いではないが、人混みだったり沢山歩くせいで異常な程の疲れが出る。 楽しいのに、疲れの方が勝ってしまうのか、その感情が面に出てきてしまって家族に我慢をさせてしまう。 動物も好きな京吾はもっと見て回りたかったんじゃないんだろうか。 その事を思い出し、少し暗くなる。 だからと言って、遠くまで連れて行ってくれたにも関わらず文句を言う奴を羨ましいと思ったりはしないが。 「俺、高校生とかになったら家族とじゃ無くて友達と行ってみたい」 「そうなんだ」 「やっぱり家族と友達とじゃ違うしな」 それはそうだと思う。けど、希輝は家族と出掛けた方が楽で楽しい。でもきっと、咲久は友達と行った方がはしゃげるのだろう。希輝には一生分からない世界だ。 家族以外と遊ぶのなら一人で、最低二人までが許容範囲。生憎、二人のうちのもう一人がいないから二人で遊ぶなんて事は無いと思うけど。 「そん時は雨髄も一緒だな」 「え、やだ」 「何で!?」 「何でって言われても…」 今思った事を話したって、きっと咲久はあぁそう。とはならないだろう。疑問ばかりが浮いて何で何でのオンパレード。 「だって僕が居たって楽しくないでしょ。空気くらいにはなれるけど」 これも本音である。二人以上で遊ぶのが苦手な訳は、無理に気遣い等をして疲れるというのもあるし、誰も自分には話しかけないから良くて空気、悪いとお荷物に成りかねない。 どっちでも、何故自分がここに居るのかと惨めになる。 だから、咲久も希輝よりか咲久みたいに明るくて楽しい友達との方が楽しめるだろう。 「それじゃあ俺と雨髄で遊びに行けばいいんじゃね」 「はい?」 いや、それだって楽しめないだろう。 ふと、そういえば咲久は自分と居て楽しいのか不思議に思った。 会話が続いてるのだって咲久が一方的に喋ってくるから何とか続いているだけだ。時々、会話が終了して沈黙が続いて気まずくなる事だってある。 プリントの届けついでに毎日お喋りをするって事は、一緒に居て楽しいって事? 「都筑は、僕と一緒に居て楽しいの」 「うん」 「何て言うんだろ、雨髄みたいな奴はあまり俺の周りには居なくて、寧ろ、正反対の奴らばかりだけど、雨髄と一緒に居ても普通に楽しいんだよな」 「僕、あまり喋らないよ。趣味とかだって合わない」 「俺がいっぱい喋れるし、趣味以外でも話題ってあるだろ。他の奴とは話さない事も雨髄となら喋れるって言うか」 どうしよう。駄目だ。そんな事を言われたら心を許してしまいそうになる。 咲久が言った事は、つまり、希輝になら何でも喋れるって事だろう。 何故?そこまで親しかった訳じゃない。他人とあまり関わら無いから秘密を暴露される事も無いとか?内緒話を聞いても興味が無く、直ぐに忘れてしまうから? 分からない。 分からないけど、自分が他人のそんな存在になっていた事が怖かった。
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