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「この子が、この前言った慎碧くん」
「…お邪魔します」
「あら、どうぞどうぞ〜。それにしても、かっこいいじゃないの〜」
「母さん、あんまり…」
「あ、ごめんなさいね〜。ほら、うちの家族は皆ひょろひょろしてるから」
「はぁ…」
リビングから、母のはしゃぐ声が聞こえ、来たんだな。と希輝は部屋に篭っていた。こういう時、下に降りて挨拶をするのが礼儀なのだろうか。愛想も振りまけない自分が挨拶したら、却って相手の機嫌を損ねるのでは無いのだろうか。
また後で、どうせ夕飯の時に下へ降りるから良いか。と思い、YouTubeを見る事にした。
「希輝、ご飯ー!」
下から母の声が聞こえたので、リビングへ向かう。
煩い人だったらどうしよう。または、怖い人だったらどうしよう。いや、面と向かって話す事なんて無いんだけど。
下に降りてみると、京吾と碧は既に席に着いていて、楽しそうに喋っていた。碧は真顔だが。
それにしても、背が高い人だと思った。椅子に座っていても、京吾とは10センチは離れているだろう。そして、表情から感情が全く読み取れない。今まで、京吾の周りに居なかったタイプなので、そんな人と京吾が仲良くなるのは珍しいと思った。もしかしたら、知らないだけでこういう人の方が合うのかもしれない。
京吾と碧の会話が飛び交う中(主に京吾)での夕飯を食べ終わった後、希輝は食器洗いをしていた。
蛇口から出てくる冷水が気持ち良い。泡のついたスプーンを洗い流す時、面を表裏変えて遊んでいた。
その時
「ちょっといい」
「え、はい!?」
隣に背の高い男が立ってきた。碧だ。
「水、飲みたいって言ったら勝手に飲んでいいって言われたから」
「あ、はいどうぞ」
コップを碧に渡す。あのコップ、汚れ付いてなかったかな。
横目で碧を見上げてみると、間近で見ているせいか、とても高く見える。改めて見てみると、185センチはあるだろうか。希輝の身長で見上げると、首が痛くなりそうだ。
「……手首」
「え。……あ」
しまった。食器洗いをしていたので服の袖を捲ったままだった。
見られてしまった。それも、初対面の人に。
びっくりした?可哀想だと思われた?痛そうだと思われた?怖いと思われた?引かれた?希輝はどれも嫌だった。
他人ではあるが、自分のしている行為を否定的に受け止められるのは嫌だった。
「……『肌かくしーと』ってやつ貼ると、見えにくくなる」
「…え?」
「バレたくないんなら、やってみたら」
それだけ言うと、コップを置いて「ありがとう」と言って二階に上がって行った。
希輝はしばらくポカンと、蛇口を捻った状態のまま止まっていた。
そんな事を初対面の人から言われるのは初めてだった。
誰だって、最初はびっくりしたり、怖がったりして近寄らなかった。中には、興味津々にじーっと見てくる人もいた。
良くない事だとは分かっていても、相手から何かを言われると、もしくは心の中で何かを思われると辛くなり、仕返しみたいに切ってしまった。
碧も、実はリスカをしていたのだろうか。いや、だが碧の着ているシャツはは七分丈で、手首は見えていたが、切り跡は見当たらなかった。
あれが碧の素の面だとしたら、とても不思議な人だけど、嫌な感じはしなかった。
「あ、水出しっぱだった…」
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