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「やっぱ、電話ってめんどくせーな」
夜、希輝が風呂に入っている時に掛けてきたので、風呂から出た後希輝から掛け直した。
「でも、連絡方法ってそれしかないでしょ」
「雨髄、LINEやってねーの」
「やってるよ」
「じゃ、交換しよ。ID言って」
それから、お互いのLINEを交換した後、早速電話を切って咲久からのメールが届いた。
「俺は来週の土曜しか空いてない。雨髄は?」
「まだ行くって決めてない」
「行くっつったじゃん」
「言ってないし」
嘘を吐いて、今週はどこも空いてないと言い、一人で京吾のプレゼントを買ってしまおうかと考えたが、
「いつでも空いてる」
と、返信した。
乗り気では無いように思っていても、心のどこかでは、家族以外の人と出掛ける事を楽しみにしていたのだ。
「じゃあ土曜に昼食べ終わったら迎え行く」
OKのスタンプを送ると、「何それ」と返ってくる。
「友達追加のやつ」
「もっと別の買えよ。ポイントとか貯めて」
「あれ面倒臭い」
「雨髄でも、面倒とか思ったりするんだ」
「当たり前じゃん。するよ」
「や、何か真面目なイメージあったから」
真面目。そういえば、プライベート以外、学校とかでは、いつも真面目そうだと言われていた。本当は、夏休みの課題だって答えを写して提出するし、授業中にノートに落書きもするので、全く真面目では無いのだが、誰とも話さず、一人で本ばかり読んでいたからそんなイメージが着いたのだろう。
希輝はこの言葉が嫌いだった。全然真面目なんかじゃないし、かと言って今更本当の自分を出せる筈が無い。勝手な勘違いをしないでほしい。
「そういう事で、来週な」
「分かった。おやすみ」
「もう寝んの!?早っ」
「うん。バイバイ」
咲久から、おやすみのスタンプが送られてくる。このスタンプだって、変な顔をしている。
正確にはまだ寝ないけど。
来週の土曜日の事を考え、希輝はだんだん不安になってきた。
急に変更になったら?妙な行動をとってしまったら?相手の機嫌を損ねたら?
今考えても仕方の無い事だが、誰かと出掛ける事なんて、今まで一度も無かったから、希輝は今から緊張していた。
「あ、お金あるかな…。」
気づけば、Googleで『お出掛け 失敗しない方法』と調べていた。勿論、希輝の望んでいる答えなんてある筈も無く、出て来るのはデート関連のものばかりだ。
希輝みたいに、家族以外と出掛ける時に不安に思う人は居ないのだろうか。
「その前に、お兄ちゃんに欲しい物聞かないと」
ベッドから、寝転がっていた身体を起こして京吾の部屋のドアをノックする。
「プレゼント?あぁ、何でも良いよ」
「それが一番困るんだけど……」
誕生日プレゼントで、何か欲しい物はあるかと聞いた所、一番困る返答が返ってきた。
「そう言われても…。欲しい物なんて無いしなぁ」
「お父さんとお母さんには何を頼んでるの?」
「デスクライトと通学用リュック」
「あるじゃん」
「いや……。それに、希輝にお金かけさせたくないし。買わなくても良いんだよ」
「お兄ちゃんは毎年買ってくれるじゃん。僕だけ貰うなんておかしいでしょ」
「そんな事無いよ。俺はお小遣いも希輝より多いし、バイトだって出来る。だからプレゼントの一つや二つ買ったくらいで財布が軽くなる事ないし。でも、希輝は自分の欲しい物あるでしょ?ゲームとか、漫画とか」
そういう事じゃない。いくら兄弟だからって、一方的に自分ばかり貰うのは変だし、「あ、じゃあお言葉に甘えて」なんて言える性格でも無い。
京吾は遠慮がちなのか、去年の誕生日もそうだった。希輝も消極的なタイプではあるが、こういう場なら、お互い対等になるべきじゃないかと思う。しかし、それを話しても、京吾は尚も遠慮し続けるだろう。
こうなったら。
「僕がお兄ちゃんの為に買いたいんだけど」
「えっ」
「それでも買っちゃいけないの?」
「いや、でもそれって」
「駄目?」
「……じゃあ、お願いします」
「…お兄ちゃん、自分が誕生日なんだから、もうちょっと甘えても良いと思うけどな」
「でも、希輝も結構遠慮する方じゃない」
「僕の事はいいから。それで、何が欲しい?」
「特に無いから、希輝に任せるよ」
「……」
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