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6月29日に開かれた、家族での京吾の誕生日パーティー。京吾の好きな食べ物が並び、夕飯の後にはケーキを食べて、プレゼントを渡す。普段から、遠慮がちで恥ずかしがり屋な京吾も、照れながらも喜んでいた。
「希輝から貰ったメガネケース、大事に使うね」
「それ、気に入ってくれた?」
「うん。可愛くて、俺好みだよ。ありがとね」
最初は遠慮していらないと言っていたものの、予想していたよりもずっと喜んでくれて、やっぱり買ってよかったと思う。
「それにしても、ほんとに時が経つのは早いよねぇ。もう18でしょ?車の免許取れちゃうじゃない!」
「うん。でも、今は勉強に集中したいから、車の免許はもうちょっと後かな。お金も貯めときたいし」
「良いねぇ。もうちょっとしたらお酒も飲めるし。その時は一緒に飲もうな」
「ちょっとパパ!お酒は二十歳になってからなんだからね!」
「分かってるよ」
賑やかだなーと思いながら、飲みかけのオレンジジュースを飲み干す。
本当に、時が経つのは早いと思った。京吾は今年、大学受験もするだろうし、受かったらきっとこの家を出て何処かで一人暮らしをするだろう。そうと決まった訳でも無いのに、寂しいと感じた。
「そういえばお兄ちゃん、この間は慎さんと一緒にお誕生日パーティーしたんだよね。どうだった?」
「えっ。…あー、とても楽しかったよ」
「……何したの」
楽しかったのなら、直ぐにそう答えればいいのに、変な間が空いて、明らかに動揺していた。
「えっ、何もしてない!」
「何もしてないの?」
「いや、した」
「どっち……」
「慎くんからプレゼントを貰ってね。なんか、四角い形のやつ」
「それ、着けないの?」
「まさか。いや、凄く嬉しかったんだけど、俺なんかには似合わないと思って……」
「えー、そんな事無いと思うけどな」
取り敢えず、楽しかったらしい。
京吾は、前の騒がしい人達よりも碧と遊ぶ事が多くなった。大人しいから、ガンガン来てくれる人との方が気が合うんじゃないかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「希輝は最近どう?」
「どうって……何もないよ」
「都筑くん、変わらず毎日家に来てくれるんでしょ。俺のプレゼントも一緒に買いに行ったんだってね」
「え、誰から聞いたの?」
「母さんから。……もしかして、聞いちゃいけなかったかな」
「そんな事無いけど……」
その話を出されると、ついこの前の咲久の事を思い出してしまう。食い入るように、ずっと見ていた。どうして?最近は、ずっとその事ばかりを考えてしまって、こんなにも意識している自分はまるで恋をしてるような……。
恋?
いやいやいや、有り得ない。
だって相手は同性で男だ。しかも、ずっと苦手意識を持っていた咲久(最近はそれも薄れてきたが)。
希輝に同性愛を否定する気持ちは全く無く、珍しいとは思うが、普段からSNSを利用していて目に入る事は何度もあった。そういう人達もいるんだくらいの認識だった。
そんな自分がまさかの同性愛者?それは絶対に無い。どんなに考え直しても、自分は女の子が恋愛対象だ。多分。そもそも、気になる異性もいないが。
でも、逆に咲久が同性愛者だとしたら、全てが納得いく。
面倒臭いのにわざわざそこまで仲の良くない近所に住む奴の家へ毎日届けには行かない。行くとしたら、提出期限のあるものか、週末に全て纏めて持って行くとか。咲久の話を聞く限り、友達相手にもそこまで気を使うような奴では無い。お人好しとも違う気がする。それに、貴重な休日を他人同然となってしまった奴と一緒にプレゼントを買いに行くのもおかしな話だ。他の友達が予定があったから仕方無く、ならまだ分かる。そもそも、あの買い物、咲久は楽しかったのだろうか。
これで、ノンケだったらきっと咲久は怒るので考えるのを止めた。そもそも、こんな自分を好きになんてならないだろう。精々友達止まり。それに、顔もそこそこ良い方(だと思う)だし、性格も誰とも分け隔て無く接する事が出来るので、きっとモテるだろう。
「希輝?」
「うわっ、何っ!?」
「ご、ごめん。そんなにびっくりした?ゲーム、一緒にしようよ」
「う、うん」
さっきまで悶々と悩んでいたのに、いつの間にかそれも消え去っていた。そして、気付かぬうちに雨が窓を叩いていた。
「……お兄ちゃん」
「んー?」
「お誕生日おめでとう。……そのー、いつか一緒にお出掛けしない?」
「あはっ、ありがとう。じゃあ、今度の休みにゲーセンでも行く?」
「行く!」
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