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6月
小さい頃、母にあげた紫陽花が咲いた。
その花弁や葉に雨粒が乗っかって、綺麗だと思った。雨は嫌いだが、こういうのを見れるのなら、まぁ良いのかもしれない。
「お前ん家の庭って凄いよなー。花いっぱいでさ」
「お母さんが趣味なんだ」
「へー、俺、どの花が可愛いとか綺麗とか、よくわかんねーんだよな。何か、どれも一緒に見える」
それは何となくわかる。確かに綺麗であり、可愛くもあるのだが、この花よりもこの花の方がと言われると、そうかな。と疑問になる。
「お、カタツムリみーっけ」
「……」
「ん?雨髄どうした」
「僕、虫は無理」
「…そうか……。じゃあやる!!」
「無理って言ったじゃん!!」
もっと小さい頃は触れた気もするが、ある時から苦手になった。一番のトラウマは、小学生の頃、林の中を探検していた時に、何処からか服の中に芋虫が入ってた。今思い出しても気持ち悪い。
「カタツムリも無理なのか」
「無理無理。カラだけならまだしも、首が出てきたら気持ち悪い」
「一番苦手な虫は?」
「百足、毛虫、蜘蛛」
「へえ…」
「持って来ないでね」
「来ない来ない」
怪しい。嫌がらせが好きな咲久の事だ。明日にでも見つけて、一匹くらいは持ってきそうだ。
「23日って、美姫と亜喜の誕生日なんだけどさ、何が良いかな」
「あ、僕のお兄ちゃんも6月生まれだ」
「まじか。いつ?」
「29日」
「6日違いか。誕生日って良いよな」
「うん」
「雨髄はいつ?」
「8月19日」
「へー」
他愛も無い会話を繰り返す。ほぼ毎日。咲久がプリントを届けに来る。希輝は玄関に出て話す。
友達ってこういう感じなのだろうか。多分、色んな形の友達があって、咲久と希輝も色んな形の中の一つであるのかもしれない。いや、友達じゃないけど。話し相手だ話し相手。
「じゃあさ、今度一緒に買いに行かね?」
「何で」
「何だよ、嫌なん?」
「嫌じゃ無い、けど、どうやって行くの」
「歩き」
「遠い」
「んだよ、歩いていけんだろ。まあ詳しい事は今日の夜、電話するわ」
じゃあな。と言って、希輝の返事も聞かずにさっさと帰ってしまった。
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