6月

1/9
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

6月

小さい頃、母にあげた紫陽花が咲いた。 その花弁や葉に雨粒が乗っかって、綺麗だと思った。雨は嫌いだが、こういうのを見れるのなら、まぁ良いのかもしれない。 「お前ん家の庭って凄いよなー。花いっぱいでさ」 「お母さんが趣味なんだ」 「へー、俺、どの花が可愛いとか綺麗とか、よくわかんねーんだよな。何か、どれも一緒に見える」 それは何となくわかる。確かに綺麗であり、可愛くもあるのだが、この花よりもこの花の方がと言われると、そうかな。と疑問になる。 「お、カタツムリみーっけ」 「……」 「ん?雨髄どうした」 「僕、虫は無理」 「…そうか……。じゃあやる!!」 「無理って言ったじゃん!!」 もっと小さい頃は触れた気もするが、ある時から苦手になった。一番のトラウマは、小学生の頃、林の中を探検していた時に、何処からか服の中に芋虫が入ってた。今思い出しても気持ち悪い。 「カタツムリも無理なのか」 「無理無理。カラだけならまだしも、首が出てきたら気持ち悪い」 「一番苦手な虫は?」 「百足、毛虫、蜘蛛」 「へえ…」 「持って来ないでね」 「来ない来ない」 怪しい。嫌がらせが好きな咲久の事だ。明日にでも見つけて、一匹くらいは持ってきそうだ。 「23日って、美姫と亜喜の誕生日なんだけどさ、何が良いかな」 「あ、僕のお兄ちゃんも6月生まれだ」 「まじか。いつ?」 「29日」 「6日違いか。誕生日って良いよな」 「うん」 「雨髄はいつ?」 「8月19日」 「へー」 他愛も無い会話を繰り返す。ほぼ毎日。咲久がプリントを届けに来る。希輝は玄関に出て話す。 友達ってこういう感じなのだろうか。多分、色んな形の友達があって、咲久と希輝も色んな形の中の一つであるのかもしれない。いや、友達じゃないけど。話し相手だ話し相手。 「じゃあさ、今度一緒に買いに行かね?」 「何で」 「何だよ、嫌なん?」 「嫌じゃ無い、けど、どうやって行くの」 「歩き」 「遠い」 「んだよ、歩いていけんだろ。まあ詳しい事は今日の夜、電話するわ」 じゃあな。と言って、希輝の返事も聞かずにさっさと帰ってしまった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!