第三界 花の町、ルーレタウン

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第三界 花の町、ルーレタウン

「着きました。ここが我が町『ルーレタウン』です」  彼女に案内された町、ルーレタウン。そこは様々な種類の花を扱った花屋が多く立ち並ぶ、活気があり華やかな町だった。 「花屋の数がすごい。しかもどれも見たこともない珍しい花ばかりだ」  先ほどの花畑に咲いていた金色の花、たしかルーレフラワーだったか。その花も美しかったが、他の花もそれぞれに異なる魅力があり、僕は目を奪われる。 「ここは花の町といわれるくらい花で有名な町。特に特産でこの町の名前にも起用されているルーレフラワーは富の花とも呼ばれていて金運が上がると人気なの」  ふふんと自慢げにこの町と花のことを語る彼女。  そして続けて花の話をしようとするが、途中、ハッとした表情で何かに気づく。 「あ、名前といえばまだ私の名前を言ってなかったわね。フィナ・ルーランドよ。よろしく」 「僕は伊世 旅人といいます。よろしくお願いします、ルーランドさん」  彼女の自己紹介に僕は笑顔で答える。 「堅苦しい呼び方はやめて。フィナって呼んでくれていいわ。だから、その……私も旅人って呼んでいいかしら」  口を少しとがらせながら上目遣いで聞く彼女。  そんなかわいらしくお願いされて断るやつは存在しないんじゃないか? 「いいですよ。じゃ、僕もフィナって呼ばせていただきますね」  僕の答えを聞き、彼女は一瞬目を見開くと、顔を紅潮させてうつむいてしまう。 「……ありがとう。よろしく」  そう言うと彼女は再び僕の手を引き、 「じゃ、今度はあっちに行くわよ、旅人!」 と先ほどまでの町の案内を再開。  彼女のお蔭でこの町のことをたくさん知ることができた僕であった。  一通りの案内してもらった僕は、フィナを彼女の家まで送り届けた。  お昼には帰ると家の人に伝えていたらしい。  ピピポーン  インターホンを鳴らし、僕と彼女はしばらく待つ。  てか、ピピポーンって音のクセが強いな。  ガチャ 「おかえりなさい。あら、そちらの方は?」  ドアを開けてでできたのは、フィナと似た姿の獣人の女性だった。  美しい黄金色の髪に整った顔立ち。とても美人だ。 「ただいま。お母さん、こちらは異世界の郵便屋さんの旅人よ! 私が拾ってきたの」  意気揚々と僕の紹介をするフィナ。  いやいや、拾ってきたって。僕は別に捨てられていたわけじゃないぞ。  それにまさか、この若い獣人の女性がフィナの母親だとは。若さもそうだけど、それ以上に美しすぎるだろ。雰囲気も上品でお嬢様といった感じだ。 「突然の訪問、失礼いたします。異世界郵便局員の伊世 旅人と申します」 「あぁ! 今日来るかもしれないと噂されてたあの郵便屋さんですか。私はレイア・ルーランドと申します。フィナの母親です」  うやうやしく頭を下げ、挨拶をするレイアさん。  僕もそれに応えるように彼女に礼をする。  それにしても、この町でそんなに有名なのだろうか。異世界郵便局員ってやつは……  そういえばフィナに案内をしてもらっているときもみんなこんな反応だったな。 「旅人さん、長旅でお疲れでしょう。よかったら上がっていってください。お昼もご一緒にいかがですか」  願ってもない申し出だ。たくさん歩いてお腹もとてつもなく減っていることだし、すぐにでも受けたい話。  でも、僕は断る。 「ありがとうございます。ですが、もうすでにお嬢様にこの町の案内までしていただいた上、お昼までごちそうになるわけには。それに……」  僕はこの家に迷惑をかけてしまっている。彼女たちの大事に育てた立派な花畑に踏み入ってしまったのに、そんな僕がこんなにも多くのご厚意を受けるわけにはいかない。 「そんな、遠慮なさらないでください。お食事は人数が多ければ多いほど楽しいものでしょう? それに私も異世界のお話を聞いてみたいですし」 「僕は転移の際、大切になされている花畑を踏み入り、潰してしまいました」  僕の唐突で正直な言葉に、目を丸くするレイアさん。 「申し訳ありません。ですから、この償いと僕を案内してくれたお嬢様へのお礼をしたいと思っています。僕に何かできることはありますか」 「ちょっと旅人! その件に関しては私が許したんだしもういいじゃない。お礼だっていらない。だって私が勝手にしたことだもん」  フィナが焦った様子で僕の袖をぐいっと引っ張り、謝罪を止めようとする。 「そうねぇ、お詫びとお礼……」  僕の提案を受け入れてくれたのか、あごに手をのせ考え始めた様子のレイアさん。 「ちょっと、お母さん!」 「わかったわ。じゃあ、あなたには今日うちに泊まって家事を手伝ってもらいましょう。それをお詫びとお礼とします!」  人差し指を立てて天井を指さし、にっこりとほほえみながらレイアさんは答えた。 「旅人は忙しい人なんだからそんなこと……って、え? お泊り!?」  レイアさんの予想外の答えにぽかんとしてしまう僕。 「あら、旅人さんがうちに泊まるの、フィナは嫌なのかしら?」 「い、いい、嫌なわけないでしょ! むしろとっても嬉しいわ。嬉しい」  必死に否定する娘の様子に嬉しそうなレイアさん。 「ふふ、フィナは旅人さんが大好きなのね」  ぼんっと音がするかのごとく、一気に顔を真っ赤に染めるフィナ。 「べ、別に大好きってほどじゃないわよ! 嫌いではないけどね!」  フィナはツンデレなのだろうか。それにしてもこの反応は鈍い僕でもわかってしまう。  まったく、僕の何がそんなに気に入ったのか。謎である。 「娘も賛成していることですし、それでよろしいですか? 旅人さん」  はぁ、お昼をごちそうになるどころか、泊めてくれると提案してくださるなんて。  しかも、ただ提案するだけでは僕が断るだろうと考え、お詫びとお礼でときた。  異世界にはこんな女神のような人が存在するのか。 「あの、こちらこそ、そんなにご厚意に甘えてしまっていいのでしょうか。それに、それがお詫びとお礼になるとは……」 「いいのですよ。それにさっきの件に関しては大して怒ってませんし。存分に甘えてください」  レイアさんの笑顔がまぶしい。やはり女神のような方だ。この人は…… 「わかりました。ではお言葉に甘えさせていただきます」  その言葉に、フィナとレイアさんは満足そうにうんうんとうなずいた。
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