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第二界 旅立ちの日
「よし。これで準備万端だね、伊世くん」
僕は昨日書いた遺書を全員分、渡して保管してもらったあと、局長からの最終チェックを受けていた。
今、その確認も滞りなく終わり、僕の出発の準備が完璧に整った。
腕には例の時計(もちろん情報は昨日、きちんと入力してある)、装備はいつもの制服に似たデザインの動きやすさを重視した防具に軽めの護身用武器を装着、そして一番重要な郵便物は背中に背負ったリュックに詰め込まれている。
そんなに詰め込んだら折れ曲がったりしてしまうのでは? と思っていたがどうやらこちらのリュックも異世界郵便局員専用の特殊なリュックのようだ。
郵便物の破損・折れ曲がりなどを完璧に防ぐ仕様になっており、運ぶ側も中身の重さの10分の1しか負担がかからないような設計になっているらしい。
またもや知らない技術ばかりで、もうこれらの話を聞いても驚かなくなっていた。
せっかくこんな便利な技術があるのなら、一般にもこの技術を応用すればいいのに。金がかかりすぎるのだろうか。
あと、僕の装備の見た目と説明が、郵便物のリュックほどに防御力がなさそうで不安だった。
ひょっとしたら郵便物の方が安全な状態なんじゃないか、これ。
「異世界行くのに、この防具で本当に大丈夫なんですか? 軽すぎてその、心配なんですが」
僕は頼りない防具を見つめて、局長に確認する。
「大丈夫、大丈夫。装備が軽いのは移動しやすいようにとの国の配慮でそうなってるんだよ。それに別に異世界といっても移動するのは町と町、国と国までの道のりだし、大して危険はないよ」
大して危険はない、ね……
それって少しはあるってことじゃないか。
「今から行く異世界はこちらの世界との交流も多くて、友好的な関係だから地元の異世界人も親切にしてくれると思うよ! あと、食べ物がとっても美味しい世界らしい! 私も観光で行ってみたいなぁ」
それなら局長が異世界郵便局員として行ってくださいよ。僕は留守番しますから。
内心そう思ったが、僕はそのことを口には出さず、愛想笑いを浮かべるにとどまった。
「仕事の合間においしい料理も堪能してくるといいよ! せっかくの異世界だしね。あ、お土産も期待しているよ!」
……お土産も持って帰れるのか。異世界、思っていたより自由だな。
まぁ、でも郵便配達できる時点でわりと自由か。
「はぁ、わかりました。しっかり国からの任務を遂行してきます」
僕は腹をくくり、局長に宣言する。
「うむ、頑張りたまえ。君の活躍を期待しているよ」
局長は僕を鼓舞激励すると、右手をスッと上げ、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、僕の背後にぐるぐると渦巻いた大きな異空間ゲートが現れた。
振り返り、僕はゲートの向こうをまじまじと見つめる。
中はどんなに目を凝らしても暗闇しかなかった。
「そこのゲートからすぐに異世界へ飛べるよ」
落ち着いたトーンで局長は僕にゲートに入ることを促す。
正直言ってこわい。
得体も知れないこのゲートに入るなんて。
でも、やるしかない。
「っ、行きます!」
覚悟を決めてゲートの中に飛び込む。
体がふわっと浮くような不思議な感じがする。目の前には闇しかなく、かすかに頬に風を感じる。あたたかくて気持ちのよい風だ。
そして、まるでこの闇の中に自分が溶け込んでいくような感覚が体を支配していく。
でも不思議と恐怖はなく、むしろ謎の安心感すらあって……
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