出会い Begin~始まる

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「あ、そう言えば・・」 先ほどいた場所から大分離れてからユウキが言った。 「どうしました?」 「まだ名前言ってなかったね。私は、『最 侑輝』(サイ ユウキ)。よろしくね」 「サイ ユウキ・・。それは覚えやすい名前ですね」 「あはは・・。やっぱり?」 「ええ。でも悪い事じゃありませんよ?名前を覚えてもらえるという事は、それだけクラスの皆にも馴染みやすいという事ですし」 「うん。私もそう思う」 「ふふ・・。私は『永花 愛』(エイカ アイ)です。よろしくお願いしますね」 「アイちゃんか・・。かわいい名前だね」 「ありがとうございます。シンプルな名前ですけど、私も気に入っているんです」 「そっか。そうだよね。あのさぁ・・」 「何ですか?」 「私の事、名前で呼んでよ。私もあなたの事、アイって呼びたいから」 「分かりました」 「あ、あとさ、敬語も出来ればやめてほしいな。アイとは友達になりたいし」 「うん。分かった」 「あれ?何だ、意外とすぐに直せるんだね?」 「別に敬語に拘っている訳じゃ無いからね。それに、ユウキがそうして欲しいならそうしてあげたい。だって、ユウキには感謝してるし」 「へ?何で?」 「ユウキと話すまでものすごく緊張してたの・・。昨日の夜もなかなか眠れなくて・・。それで朝早く起きちゃったし、どうしたら良いか分からなかったから・・。けど今はすっかり気分が良いの」 そっか・・。 緊張してるのは私だけじゃ無いんだよね・・。 皆、同じなんだ・・。 「私も。アイと話すまでものすごく緊張してて。で、時間があったから気分転換しようと思って、鏡の前の自分に向かって自己紹介してみたんだけど・・」 「結果は良く無かったみたいね・・」 「うん・・。何と言うか、こんな事恥ずかしくて言わないだろうとか、そんな変な事まで言っちゃったりしてさ。練習した意味なかったよ」 「そうなんだ」 校舎にたどり着いた。 入り口のすぐ横の壁に大きな紙が張り出されている。 クラス発表がされているのだ。 それが全部で6枚。 つまり1組から6組まであると言う事だ。 生徒がまばらにいる。 もう時間的に校舎に入った生徒の方が多そうだ。 「アイ、一緒のクラスだと良いね」 「うん。そうなれば、この先の不安も無くなるしね」 2人は早速、1組の名簿から目を通していった。 男子生徒が1人、1組の名簿を見ている所だった。        1組 1 飯田 求 2 永花 愛 「あった!」 すぐにアイが声を上げた。 アイの苗字は『永花』(エイカ)。 そのために早く見つける事が出来たのだ。 「1組2番か・・」 「ユウキは?」 「まだ。と言っても1クラスの人数が少ないから1組にいるならすぐに・・」 ユウキは指で名前を指しながら順々に見て行った。 3 恵久須 乃枝瑠 4 江沼 絵夢 5 大谷 貞樹 「あっ!!」 ユウキの指が自分の名前の所で止まった。 6 最 侑輝 「1組だ!」 「1組だ!」 ユウキと、ユウキのすぐそばで1組の名簿を見ていた男子生徒が同時に叫んだ。 「え?」 「ん?」 あまりに同時だったために、身体がそのままの恰好で止まったままお互いが顔を見合わせた。 ドキッ!! その男子生徒の顔を見た瞬間、何故かユウキの心臓の鼓動が強く、速くなった。 だからと言って、1目惚れをした訳では無い。 それ以上に、とてつもなく大切な何かを思い出したような、そんな感じがしたのだ。 なんだろう・・。 この胸の高まりは・・? 嬉しいような・・ 悲しいような・・ 苦しいような・・ 良く分からない感じ・・。 この気持ち・・何・・? 「えっと・・、君は・・」 男子生徒は戸惑いながらも、ユウキの指の位置を確認した。 「サイ ユウキ・・って読むの?」 「は・・はいっ!!」 「分かりやすい名前だね」 「ははは・・。良く言われます・・」 ユウキは苦笑した。 「で、あなたは・・」 ユウキは男子生徒が指している場所を見た。 大きな紙の左側に1~7番の生徒の名前、右側に8~14番の生徒の名前が書かれている。 その男子生徒は12番の名前を指していた。 その名前は・・。 12 百日絶人 と書かれていた。 ユウキは首を傾げながらその名前を見た。 何て読むんだ・・? これ・・? 「えっと・・、ひゃくにち・・?」 「モモカ ゼットだ。よろしくね」 「あ、うん。こちらこそ」 それから2人は取り留めの無い話を続けた。 この会話の事を、後の2人は憶えていない。 それは会話の内容がどうこうとかは関係なく、2人にとって、話している事自体が幸福だったからだ。 「ユウキ!!」 アイの大声が聴こえた。 ユウキはビクッとしてゼットとの会話を打ち切った。 ユウキは話に夢中になっていて、そばにいたアイの存在をすっかり忘れていたのだ。 「どうしたの?」 ユウキはアイの方に振り返って言った。 「チャイム鳴ったよ。もう皆校舎に入っていったし・・」 「え?」 ここでユウキは周りの生徒が全くいない事に初めて気づいた。 「た・・大変だ!急ごうアイ!モモカ君!!」 「うん!」 「そうだな・・って、君の名は?」 ゼットがアイに尋ねた。 アイは慌てて言った。 「今は時間が無いから説明してられない。私も1組だから、後で自己紹介するよ。それで良い?」 「ああ。分かった」 3人はダッシュで校舎に向かった。 (この感じ・・) ゼットは自分の目の前で、ユウキとアイが一緒に走っているのを見て思った。 (何だか懐かしい感じがするな・・) (俺の記憶の中に) (こんな風に3人で走ったりした事があったんだろうか・・?) (・・まさかな) 3人は校舎の中へと消えて行った・・。
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