32人が本棚に入れています
本棚に追加
/561ページ
「また『組織の一員』・・。そして・・『ボス』か・・」
話を聞き終えたゼットが呟いた。
「『組織とボス』は、エヌマさんとケイタが言っていたのと同じものなんだろうか?」
「そうだと思う。だって、そうでも無いと説明のしようが無いよ。見えた内容は違っても、一瞬で多くの記憶が頭の中に入って来るなんていう経験をするなんて、考えられないじゃない?」
「ん・・。俺もそう思う・・」
エムの回答にケイタが同意した。
「なあケイタ」
「何だゼット・・?」
「『ケツアルカトル』と『ラー』も、もしかして『神』か?」
「ん・・そうだ・・。ケツアルカトルは『アステカ神話の文化神、農耕神』の名で・・、ラーは、『エジプト神話の太陽神』の名だ・・」
「そうか・・。また神か・・」
ゼットはしばらく腕を組んで考え事をしていたが、やがて言った。
「ケイタ、助かった。ありがとう」
「なに・・、気にする事は無い・・」
ゼットがケイタに礼を言うと、ケイタは首を振って言った。
「後はさっきキュウとブイさんが言ってた、『黒髪の少年』と『白髪の少女』はもしかして・・」
「うん。『白髪の少女』は私で、『黒髪の少年』は私達が見た少年と同一人物の可能性が高いね」
「ああ。そうだろうな」
アイとゼットがお互いの考えを確認し合った。
「え?あの白髪の少女がエイカさんだったのですか?」
「多分・・ね」
「そう言えば今思い出しました!ワタクシは『黒髪の少年』と『白髪の少女』の事を名前で呼んでいたのですわ」
「な・・何だって!?何て言う名前なんだ?!教えてくれ!!」
ゼットが慌てて言った。
「ワタクシは白髪の少女を『アイちゃん』、そして、黒髪の少年の事を『ユウ君』と呼んでいましたわ」
ユウ・・?
私の名前に似てる・・?
ユウキはそう思った。
「白髪の少女は私と同じ名前だったの・・?」
アイが不安げな表情をした。
ゼットが頷いた。
「そのようだな。君が見た記憶では、自分の名は呼ばれなかったんだな?」
「うん。もし呼ばれてたら・・」
「ん?」
「もし呼ばれてたら、もっと私は混乱したと思う。だって私と同じ名前なんだから・・」
「呼ばれてなくて良かったと?」
「うん。呼ばれなかったから、何とか冷静にあの記憶を受け入れる事が出来たの」
「そうだな。それは言えてる」
「なるほど・・。確かにお二人のお話を聞いていると、あの時見た白髪の少女は何となくエイカさんに似ているような気もしてきましたわ」
アールグレイはまじまじとアイを見た。
アイは顔を赤らめて視線を反らした。
どうしてだろう・・。
こんなに近くにいるのに・・。
今は、とても遠くに皆がいるように見える・・。
ユウキはこの状況を見てそう思った。
「それにしても、どうして私達は仲間に追われていたんだろうね?ねえブイさん、確かブイさんとイイダ君は、『私達2人を殺すために追ってた』って言ったよね?」
「ええ。そうですわよ」
「私と『黒髪の少年』は、組織に命を狙われるような事をしたって事だよね?一体何をしたんだろう・・?」
「ああそう言えば、あなた達は『組織から抜けた』と言う話もしておりましたわね」
「組織から抜けた!?それだけで殺されなきゃならないの?」
「そのようですわね。おそらく組織に入った時に、そう言う約束事があったのだろうと推測できますが・・」
「怖いね・・。私達が属していた組織って、一体何なんだろう?」
「殺し屋・・じゃないか?」
キュウが言った。
「殺し屋?」
「ああ。だって俺とブイさん、そしてエヌマさんとケイタ、共に『殺す』と言う言葉を使っていたじゃないか?俺達は2人の少年・少女を『殺す』ために追いかけていたし・・」
「そうだね。私とケイタ君も誰かを『殺した』後、その子分みたいな人達に追われていたしね」
キュウの言葉にエムが同意した。
「殺し屋・・か・・」
ゼットが呟いた。
(そして)
(『ユウ』と言う名の)
(黒髪の少年・・)
ゼットはチラッとユウキの方を見た。
「となると、もしかして俺達全員が、その『殺しの組織』に属していたのか?そうでなければ、クラスの全員の名前に『イニシャル』が入っている事の説明が出来ないしな」
「うん。そうだね」
アイがゼットの言葉に同意した。
「ワタクシの話は以上ですわ」
「俺ももう話す事は無い」
「そうか。それじゃあエヌマさんとケイタはどうだ?他に話す事は無いか?」
「私は無いよ」
「俺も・・」
「そうか。だったら、この話は今はここまでだな。また誰かが同じような経験をしたら、皆で情報を共有しあっていく事にしよう。皆、それで良いか?」
ゼットの提案に、全員が頷いた。
それを聞いて、アールグレイがホッとため息を吐いた。
「これでやっと、ワタクシの本題に戻れそうですわね。ヤエスさん!」
「お・・おお!?どうしたんだいグレイっち?」
「ほらまた・・。ワタクシの名は『アールグレイ』です。お願いですから省略しないでくださいまし!」
「私は良いと思うよ!」
エムがいきなり会話に入って来た。
目がものすごく輝いている。
「い・・いきなりどうなさったのですかエヌマさん・・?目が輝いておりますが・・」
「私が知っている小説の主人公に『コーデリア・グレイ』と言う人がいるの!その人はブイさんにそっくりで、ものすごく素敵な人なの!だから私は、『グレイ』って呼び方ありだと思うな!」
「その『コーデリア・グレイ』と言う方は、どう言う方なのですか?」
「『コーデリア・グレイ』は女探偵だよ!」
『探偵』と聞くと、アールグレイは露骨に嫌な表情を見せた。
「た・・探偵・・。誰かさんを思い出しますわね・・」
「彼女は美人で頭も良くって普段はクールなんだけど、心の内にしなやかさと強さを秘めていて、時には感情を爆発させる事もあるの。でも、そこがまた人間らしくて良いんだよ!」
エムは熱っぽく語った。
アールグレイは呆気にとられてエムの話を聞いていたが、やがて言った。
「その方が、ワタクシに似ていると?」
「うん!ブイさんも美人で頭も良いし」
「まぁ!嬉しいですわね!」
「それに、普段はクールなんだけど、時々感情を爆発させるでしょう?」
「う~ん・・。まあ確かに、そう言われてみるとそうかも知れませんわね」
(クール・・?)
(ワタクシって)
(クールなのかしら・・?)
「だからお願い!私もブイさんの事、『グレイさん』って呼びたいから!」
エムの瞳の輝きがさらに増した。
そんな目で見られたアールグレイは、降参せざるを得なかった。
「ふう・・。分かりましたわ・・。あなた達お二人には特別に、ワタクシの事を『グレイ』と呼ぶ事を許可いたします」
「ありがとうグレイさん!!」
「サンキューグレイっち!!」
「他の方達は申し訳ございませんが、ワタクシが『グレイ』と呼ばれるのに慣れるまで待っていただけませんか?」
グレイがそう尋ねると、他のメンバーは皆それで良いと言った。
「ありがとうございます皆さん」
グレイはぺこりと頭を下げた。
「よし、皆食事を終えたようだし、そろそろここを出ようか?」
エイチの言葉に皆が賛成し立ち上がった。
皆、食事に対する挨拶(ごちそうさま)を忘れずに行った。
レジの所に向かうと、ポニーテールのメイドAが待っていた。
「あ、皆さん。楽しんでいただけましたか?」
「はい・・!とっても・・!!」
ノエルが本当に嬉しそうに叫んだ。
他の女性陣も同様だ。
メイドAはそれを聞いてニッコリ笑った。
「それは良かったです。それでは会計が終わったら更衣室にご案内いたしますね」
という訳で皆、会計を済ませた。
「吾輩達は外で待ってますね」
女性陣がメイドAに更衣室に案内される時にピーターが言い、男性陣は店の外に出て行った。
「ただいま!私のカバン!!」
エムが着替えを終え、カバンを返してもらうとすぐにカバン抱きしめた。
そして中身を確認し、3年間探し求めていた恋愛小説がちゃんと入っているかどうかを確認した。
メイド服の着用、そして、テイキの隣の席になった事で頭が一杯一杯になっていたものの、やはり大切な小説の事は忘れていなかったようだ。
この事には、他の女性陣は苦笑するしか無かった。
ちなみに、メイド服は皆キレイにたたんで、店からもらった袋に入れて持って帰る事になった。
「いってらっしゃいませ~ご主人様!!」
メイドAに見送られながら、女性陣は外に出た。
最初のコメントを投稿しよう!