全員集合 Conglomerate~集団

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全員集合 Conglomerate~集団

「間に合った!!」 ユウキ、アイ、ゼットの3人が1組の教室に入った。 3人以外の生徒はすでに全員席に座っていたが、担任の姿はまだ見当たらなかった。 私の席は、 一番前か・・。 机の右上に、名前の書かれた四角いプレートが置いてある。 席は3列になっており、窓際の前から2番目の席がアイ。 真ん中の一番前の席がユウキ。 そして一番通路側の2番目の席がゼットの席だった。 合計14人の生徒が、5-5-4で分かれているという事だ。 3人はそれぞれ自分の席に着席した。 すると・・。 「ざんね~ん。3人ともアウトォ。遅刻ぅ~」 「うわあ!?」 ユウキの目の前にある教卓の下からいきなり声が聞こえ、教卓の下から女性が出てきた。 20代後半ぐらいだろうか。 透き通った水色のロングヘアーと、橙色の瞳が特徴だ。 さらに言うと、なかなかの美人だ。 ううう・・。 入学早々いきなり遅刻とは・・。 ユウキはガクッとした。 アイとゼットの2人もため息を吐いた。 そんな3人を見て、担任の教師がニヤリと笑った。 「な~んてねぇ。まあ許してやるよぉ。青春真っ只中みたいだしぃ、担任として応援してやらないとなぁ」 「え・・」 ま・・まさか・・。 一部始終見てたのか・・? この暇人め~~~!!! ユウキは心の中で思った。 「さてと・・」 担任が急に真面目な顔をした。 「もう少し遊んでいたいんだけど、あんまり時間が無いんでね。皆軽~く自己紹介したら第一武術館(体育館の事)に行って、入学式で教頭先生の長ったらしいありがたくな~いお言葉を聞かなきゃならないからねぇ」 そんな事言われると 憂鬱なんだけど・・。 「という訳で、早速自己紹介してもらおうか。紹介の仕方は各自の自由だ。別に型にはめる必要も無い。試しにアタシが自己紹介してあげよう」 担任が全生徒の顔を見回した。 その後、ホワイトボードにでかでかと自分の名前を書き始めた。 そしてホワイトボードに、『伊丹 沙留』と書かれた。 「アタシの名前は『伊丹 沙留』(イニ シャル)だ。年齢は・・まあ好きに想像してくれて構わないが、30は過ぎてないからな。ここテストに出るからな。しっかり覚えておけよ。好きな事は・・まあ色々。嫌いな事も色々ある。趣味に特技・・まあ色々あるかな。とりあえず、人生も色々あるって事だよ」 教室の中は静まり返っている。 型にはめなくて良いのは分かったよ。 けど、 名前以外、 何も分からないんデスけど・・。 「ああそうそう。アタシの事は決して名前で呼ばないように!『シャル』ってカッコいい感じもしなくは無いけど、下手すると『サル』に聞こえかねないからなぁ。そんな訳でぇ、1年間よろしくぅ~!」 私は1年間耐えられるだろうか・・? このノリに・・。 ユウキは不安になった。 「さあてと、それじゃあ今度はアンタ達の番だ。女子生徒に順番を選ばせてやるよ。1番、出席番号順。2番、女子生徒が全員やってから男子生徒。3番、男子生徒が・・」 「3番で!!」 女子生徒の1人が言った。 どうやら、ユウキの右斜め後ろから聞こえてきたようだ。 「良いねぇ。そうやってはっきり言ってくれるとアタシも助かる。他の女子生徒はどうだ?」 ユウキはアイの方を見た。 同時に、アイもユウキを見る。 2人は同時に頷き合った。 それを見たシャルが言った。 「どうやら3番に2人追加のようだ。あと1人で過半数だが、他の4人はどうしたい?」 「あの・・私も・・3番に・・」 アイの後ろの女子生徒が手を挙げて言った。 小さな声でほとんど聞き取れない。 シャルが、声がした方を見ながら言った。 「これで決まりだね。ん・・?」 シャルが違和感に気付いた。 一番窓際の方の席を見ると、一番後ろの男子生徒が自分の席を教室のぎりぎりまで後ろに移動させていたのだ。 「そこ!何やってんだ!?」 「済みません!」 男子生徒が素直に謝った。 「これには深い訳がありまして・・。それは自己紹介の時にお話します」 「駄目だ。今、話しな」 シャルの言葉に男子生徒が困った表情をしたが、仕方が無さそうに言った。 「実は・・僕は、『女性恐怖症』なんです・・」 「ほほう・・。その話、興味あるねぇ・・。今話すと楽しみが無くなっちゃうから、やっぱりその続きは自己紹介の時に頼むよ」 男子生徒は、シャルの言葉にホッとしたようだ。 表情から、それが窺える。 「それじゃあ自己紹介をしてもらおうか。順番は、男子生徒の1番から順に出席番号順で男子が全員やったら、女子生徒の1番って事で。あ、わざわざ前に出てこなくて良いから。その場で立ってやってちょうだい。と言う訳で、最初の奴、よろしくぅ!!」 窓際の一番前の席の男子生徒が立ち上がった。 「『飯田 求』(イイダ キュウ)です」 キュウは黄色の髪、緑色の瞳。 外見的な特徴は、他には特に無い。 「動物が好きで、その中でも特に犬が好きです。犬を飼っていましたが昨年死にました。せめてもの救いは、病気や事故で死んだのでは無かったと言う事です」 キュウは話を続けた。 「趣味は乗馬です。騎手(Equestrian)だった父に教わりました。あと特技は悪魔や悪霊を祓う事です。これはエクソシスト(Exocist)だった母に教わりました。2人とも病気で亡くなってしまいましたが・・」 エクソシストなんて、 この世に本当に存在するんだ~・・。 すごいなぁ・・。 ユウキは素直に感心した。 にしても・・。 両親がいないって・・。 私と一緒・・? 「要するに他人の悪霊は祓えても、自分達の悪霊は祓えなかったって事です。俺の紹介はこんな所ですかね。それじゃあよろしくお願いします」 キュウが着席すると、まばらな拍手が起きた。 ちょっと悲しい内容だったからだ。 「あ、そうそう」 突然、シャルが話し出した。 「イイダの両親が亡くなったって話だけど、他の皆も他人事じゃないって思ったろ?このクラスは全員両親がいないんだ。だからその事を同情する必要も、悲しんでやる必要も無いって訳」 全員がハッとした顔で、シャルを見た。 要するにキュウの話を聞いた時、皆、シャルが言った事を考えていたと言う事だ。 「ちなみに、他のクラスには両親を失った生徒は1人もいない。つまり、両親を亡くした生徒は皆このクラスに集まっているって訳だ」 「一体何故そんな事を?」 ユウキの後ろの方に座っている女子生徒が尋ねた。 すると、シャルは首を振った。 「その理由はアタシにも分からないんだ。これは、この学園を作った『校長』が決めたみたいだから」 校長が・・。 一体何者なんだろう・・? 「『みたい』とはどういう事ですか?」 先ほどの、ユウキの後ろの方に座っている女子生徒が再び尋ねた。 「それがねぇ・・。この事は講師全員に配布された冊子に書かれてあったんだよ。で、その冊子は校長が書いた事になってる。著者名に『校長』と書かれていたからね」 「名前では無く、『校長』と書かれてあったのですね?」 「ああそうさ。で、このクラスに特殊な生徒を集める事にしたのは校長だと分かった。けどアタシ達講師全員、校長の名前を知らないし、校長の姿を見た人間もいないんだ」 「なるほど・・。だから、『みたい』なのですね?ルールを決めたのが本当に校長なのかどうか、校長本人に確認する事が出来なかった訳だから」 「そういう事さ。賢いな」 「いえ・・、それほどでも。にしても、校長の姿を見た人がいないって異常だな・・。もしかして、何かの事件の前触れなのかな・・?」 女子生徒が呟いた。 が、シャルはその声を無視して言った。
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