キラキラネーム

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「理由を聞いたら、ほら、いつものあれ。お金に困らないように、と、シャレが利いてるって自慢ね。それ聞かされて、でもその後、お父さん言ったのよ。 『自分の子供には、俺みたいな惨めな思いはさせたくない。ちゃんと大学まで行かせて、できるだけ人生の選択肢を幅広く与えてやりたい。だから、お金に困らないように、縁起のいい名前を付けたい。名前はその人の性質に影響するから、良い漢字を使うことは大事なんだ。それに、これからは個性の時代だから、このくらいインパクトのある名前のほうが、周囲に可愛がられて成功するに決まってる』  個性の時代とか、可愛がられて成功するとか言われても、何の根拠もなくて正直よくわからなかったけど、まあお父さんにそこまで気持ちがあるならいいのかなって思いながら聞いてた。そしたらお父さん急に暗い顔になって、 『でも、俺の名字に羽がついてるから、お金に羽が生えて出てっちゃったらどうしよう』」  俺は吹き出した。  そこはネタではなかったのか。  キチンと懸念事項として挙げていたのか。  名前について熱く語った後、急にショボンとする若かりし父親を思い浮かべると、さらにじわじわ可笑しさが込み上げる。 「そこでよ。じゃあ私のとこに婿養子になろうかって話になったの」 「そっち行く!?」 「芝崎のおじいちゃん、会社やってるでしょ?」  俺の反応なんかお構いなしで母親の話は続く。  芝崎というのは母親の旧姓で、芝崎のおじいちゃんとは俺の祖父だ。 「あの会社、今でこそあんなに小規模になってるけど、先代、つまりあんたのひいおじいちゃんの代は、かなり勢いがあって儲かってたのよ。だから私もそこそこ裕福に育ったのね。  だけど、というか、だからというか、結婚してお父さんを婿養子にって話をしたら、芝崎家の財産を狙っているんじゃないかって誤解されちゃって、親類の同意が全く得られなくて、結局婿養子計画はダメになっちゃったのよね……」  たしかに、疑いたくなる芝崎家サイドの気持ちもわからなくはない。財産があればこそ、必要以上に疑心暗鬼になることもきっとあるだろう。とはいえ、何の下心もなく婿入りを志願して、結婚相手の一族に誤解を受けてしまった父親は、ピュアだからこそ一層かわいそうに思える。  でも、だ。  そもそもの動機がお金に羽が生えるのを避けるためだと思うと、あまりにアホで笑いが激しく込み上げた。  この人達絶対なんかズレてる。そんなら別の名前考えたほうが絶対早いじゃん。マジで二人してツッコミ待ちなのか? 普通は名字の前に名前を妥協するんだよ!!  しょんぼりとして話す母親の前で、さすがにここで笑っちゃいけないと、俺は下を向いてプルプル腹筋を震わせながら一生懸命笑いをかみ殺した。
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