キラキラネーム

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キラキラネーム

 俺の名前は金有だ。  断っておくが、これは名字ではなく下の名前だ。  読みを一発で当てた人はいないどころか、今のところ二発でも五発でも十発でも当てた人はいない。いわゆるキラキラネームというやつだ。  フルネームを書くと「どっちも名字じゃね?」とバカにされる。読みを告げると首を傾げられた後、笑いをかみ殺すように口元を歪められる。  普通はまず、「かねあり……?」と不思議顔で呟く。そして「きんゆう?」「かなう?」「かねう?」「かねゆう」「きんう」と続き、たまにアホなやつがしたり顔で「きんあり!」と叫ぶ。  ちょっと語学のできる人は「かのう……?」とリエゾンしてくる。  残念ながらどれもハズレ。  俺の名前は、金有(ばんく)なのだ。  小さい時は普通に「ばんくくん」と呼ばれていて、名前の表記もひらがなだったので誰にも疑問をもたれなかったし、俺も自分の名前がおかしいなんて考えたことも感じたこともなかった。  それが、小学校二年生になって、名前が漢字で書かれるようになると、急に周りがざわつき始めた。  違和感を伝えてきた一人目は、隣の席の女の子だった。  俺が書いていた習字の名前を見て、 「ばんくくん、名前まちがってるよ」  と言われ、 「まちがってないよ、ばんくだよ」  と答えると、首を傾げられた。    三年生で「有」という漢字を習ったとき、俺の名前は「お金が有る」という意味だと知ることとなった。  そう、お金が有る=バンク(銀行)なのだ。  こんなふざけた名前を付けたのは父親で、俺の名前の話題になる度に「一生お金に困らないように縁起のいい名前にした」とドヤ顔で言う。しかも、音読みの金有(きんゆう)と金融が掛かっていることを挙げ、いかに自分のセンスが良いかを嬉々として語る。  そんな父親は今でこそ左官職人をしているが、若い頃は芸人を目指していたというお笑い好き。だから自分の名前までネタにされたようで腹が立つし、「(きん)」と「ばん」、「(ゆう)」と「く」、と絶妙に韻を踏ませてまあまあ読める気にさせてきてるのが、なおのこと憎たらしい。  フルネームになるともっと厄介で、羽田(はねだ)金有という字面が、お金に羽が生えているイメージにつながり、結局貧乏になりそうな雰囲気が笑いを誘うので、中学高校と相当バカにされた。これに関しては父親は何も言わないが、もちろんネタとして折り込み済みに決まってる。  そんな名付けで母親は止めなかったのかと疑問に思うかもしれないが、残念なことに父親のくだらないセンスが大好きな人なので、むしろ発想力を尊敬でもする勢いで了承したに違いない。
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