決闘日和!

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「お前は何もわかってないな、達也!」  そして雅彦は、俺の肩をがしっと掴んで暑苦しく力説してくるのだ。 「決闘といったら、雨の中だろう!」 「は?」 「雨の中で、男と男が拳と拳でぶつかり合うのだ!そしてお互い全力で、魂をぶつけ合う闘いをした後……それぞれ拳をつきあわせ、“やるじゃねえか”“お前もな!”と笑顔で倒れこむ!そして、そこから二人の間に真の友情が芽生えて、いずれお互いがお互いのピンチに全力で駆けつける親友……否!唯一無二相棒とも呼べる間柄になっていくわけで……!」 「……うん、わかった。お前が不良漫画を読みすぎたってのはよく分かったよ……」  一体いつの時代の夢を見ているのか、こいつは。というか、この学校にそれっぽい不良はいないと思い知って懲りたのではなかったか。 「つまり。……結論から言って、お前決闘を申し込んだその相手と仲良くなりたいわけだな?誰に送ったんだよ、誰に」  俺が問いかけると。雅彦は途端――それはもう、茹で上がったかのように顔を真っ赤にし、ぼそりと呟いたのである。 「…………隣のクラスの、蓮見薫(はすみれん)」  その瞬間、俺は理解した。理解したくなかったが、してしまった。  蓮見薫。それは、この学校のアイドル的存在である。小柄で、アメリカ人とのハーフ、色が真っ白で眼が青く、お人形のように愛らしい顔をしている人物だ。ただし。 「……うち、男子校なんだけど」 「知ってる」 「蓮見も当然、ついてるもんはついてるんだけど」 「知ってるううう!それでも!俺は、同性と知りながらあってはいけない恋をしてしまったんだあああ!あ、あんな、あんな可憐なコは今までどんな女の子にもいなかったから、だからあ!」 「アホか」  百歩譲って、雅彦が好きになった相手が男の娘であったことはいいことにしよう。いや、いろいろ問題はあるような気がするが、別にそういう趣向を差別するつもりはないし、本人が本気ならそれを邪魔しようとは思わない。思わないが。 「何でラブレターじゃなくて決闘状なんだよ。お前馬鹿なの死ぬの?」  いくら直接告白する勇気がないからって、好きな相手に決闘を挑む馬鹿がいるか。俺が心底あきれ果てていると、再び肩を掴んできた不良のなりそこないは、ぶんぶんと俺の体を揺さぶりながら叫んでくれた。 「だって、だって!いきなり好きです付き合ってくださいとか言えねーじゃん俺男だしあいつも男だし!とりあえず友達から始めたいって言うしかねーじゃん、友達になるためには雨の中の決闘が一番いいって!漫画じゃそう書いてあったからあ!」 「や、やべろ……死ぬ、俺死ぬ……!」  とりあえず、その妄想たっぷりの漫画からなんとか離れてくれ。俺は揺さぶられて吐きそうになりながら本気でそう思ったのだった。――残念ながら、俺のその願いはとても通じる気配がなかったけれど。
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