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言い忘れていたが。
雅彦はデカい。平均的な身長・体格の俺よりもだいぶデカい。中学時代はバスケットボールをやっていたから鍛えられたんだろう。かなり男らしい見た目、男らしくがっしりした体格をしている、と言っていい。充分大柄、の範疇に入るはずである。
その雅彦の体が、だ。さっきから、まるでぬいぐるみのようにポイポイと宙を舞っては泥だらけの地面に落下する、を繰り返しているのだ。なんかの幻でも見ているのだろうか、と俺は何度も眼をこすってしまう。
結局雅彦のしょうもない勘違い、というか暴走を止めることができず。されど“怖いから傍で見ててくれええ!”なんてしょうもないかんじで泣きつかれて見なかったフリもできなくなり。お人好しの俺は、雅彦が決闘場として選んだ校舎裏に、傘をさして同行する羽目になってしまったのだが(そして、相手が来るより前に、律儀に傘をささずに待っていた雅彦は三秒でズブ濡れになった。絶対風邪をひくだろと思う。馬鹿だからひかないかもしれないが)。
その雅彦の決闘状?の皮を被ったラブレターもどきのために、部活に行っていて遅くなっていた件の蓮見薫が真面目に校舎裏に来てくれた、そこまではいいのだが。
――み、みっともな……。
華奢で女の子みたいに可愛い見目と違い、蓮見は強かった。それはもう、恐ろしく強かったのである。愛しい相手の姿に雅彦が本気で殴るなんて全くできない(どうしてそうなることが予想できなかったんだお前、と俺は言いたい)のも情けない話なのだが。それを差し引いても、蓮見の格闘スキルは非常に高かったのである。
「君、一体どういうつもりなのかな?……僕が中学まで柔道部のエースだったって、知らなかったの?ていうか、あの決闘状なに?意味不明なんだけど?」
可愛い顔して蓮見はズケズケとモノを言う。その男の娘な外見で柔道部とかそんなことあるんですか詐欺ですか、と白目になる俺。いや、確かに詐欺ではあるが、これほど体格差があって瞬殺されまくる不良っぽい大柄男ってのも悲しすぎやしないだろうか。
先述したように、雅彦は元バスケ部だ。体も鍛えている。運動神経だって悪くないどころか相当いい。学校の成績は低空飛行だが体育の成績だけ必ず5を取るという典型的な脳筋である。それなのに。さすがにここまでの結果は予想外すぎる。雅彦もそれはわかっているのだろう、あまりに何度も投げられすぎて、もう立ち上がる気力もないのかぐったりと仰向けたままになっている。
「“お前のハートを賭けて決闘しろ”ってなに?からかってるの?こんな土砂降りの雨の中呼び出しておいてさあ、しかもそこまでめっちゃくちゃ弱くて。馬鹿にしてる?僕が女の子みたいな見た目だから?」
そこまで聞いて、俺は蓮見の不機嫌の理由を知ったのだった。雨の中で呼び出されたのも最悪だろうが、彼にとってはそれ以上に大きな問題があったのだろう。
多分。――可愛らしい見た目をからかわれたことが、一度や二度ではないのだ、彼は。
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