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「人の見た目をからかって、馬鹿にするような奴とは。何回やっても負ける気がしないね」
違う、そうじゃないんだ。俺はさすがに弁解しようか迷う。確かに雅彦は馬鹿だ。土砂降りの雨の日を決闘日和と思い込むほどの大馬鹿者だ、でも。
幼馴染の俺は知っている。彼が、恋をしたことは一度や二度ではない。いつも全力でぶつかって、そして砕けてきたことを知っているのである。――彼は誰を相手にしても、いつも全力で――本気で、恋をしてきたということを。
面白半分、ふざけ半分でこんなことをするような人間じゃないということを。
――そりゃ、悪いのは雅彦だけど!このまま勘違いされるってのは、あんまりにも……!
俺が何かを言いかけた、その時だった。ぐったりしていた雅彦が、ぐっと唇を噛み締め――ぶるぶる震える体を必死に起こして見せたのである。あれだけ投げられて、まだ立つ気力があるのか。蓮見も少しだけ驚いたような顔をする。
「……俺は、確かに弱ぇし……馬鹿、だけど。でも!……いつだって本気だし、絶対嘘だけは、つかねえ……俺は!」
泥まみれの汚い顔で、それでも必死で蓮見を見据えて、言ったのである。
「俺は、蓮見薫!お前が、好きだ!!可愛いけど、すっげぇ強いお前に……今、むっちゃ、惚れ直してるっ!!」
雅彦は、馬鹿である。筋金入りの、馬鹿である。
そして、誰より馬鹿正直で一途なのだ。
「も、もっと体鍛えて……強くなる!強くなって、お前に挑む!そんでいつか俺が勝ったらその時は……付き合ってくれえ!!」
今日が、本当に決闘日和であったのかどうかは、神のみぞ知るところである。
それでも雨の中、泥まみれでバッチイ状態になってもボロボロでも、一生懸命想いを伝えようとする雅彦の姿が。友人の俺の眼から見ても、最高にカッコイイと思えたのは――ここだけの話だ。
「……本当に、馬鹿なんだ」
そんな雅彦を、蓮見は驚いたように見て、そして。
「いいよ。……いつでも相手になってやる。かかってきなよ」
挑戦的に、ちょっぴり楽しそうに笑ってみせたのだった。
彼らの関係が、果たして漫画通り親友に至るのか、あるいはいつかそれさえも飛び越えるのか。それはきっと、神様にもわからないことである。
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