1人が本棚に入れています
本棚に追加
雨は一向にやむ気配を見せないでいる。それよりも、だんだんと雨脚が強くなってきている様な気がした。
そんな状況の中、未だ決めかねている私を見ながら高森君は小さく息を吐いた。
「そんなに身構える事もないでしょ。君は雨に濡れたくないから傘を差そうとした。けど、その傘は役には立たない。僕も雨には濡れたくないけど、君を無視できない。一緒に駅に向かうのが最善の策だと思うけど? そして、こういう時の善意には素直に甘えるべきだよ」
同い年とは思えない程の紳士的な発言に、胸の中が熱くなる。
ごもっともな意見です……。私には選べる程の選択肢は用意されていない。
なので、素直に甘える事にした。
「では、駅までおじゃまします……」
「心が決まったみたいだね」
フッと静かに笑った。その顔が頭に焼き付く。
――こんなに柔らかく笑う人、初めて見た。
その笑顔を見た瞬間ずんっと心臓が跳ね上がり、また顔に熱を持つ。でも、さっきの恥ずかしさとは違う熱の持ち方。
何故だか高森君の顔が見れなくなった。
「じゃあ行こうか」
「う、うん」
返事もぎこちなくなる。
高森君の隣に並び二人で歩き出す。背が高く歩幅も広いはずなのに、私の速度に合わせてくれる。そんな些細な優しさが何だか嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!