君の傘で雨宿り

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君の傘で雨宿り

低気圧が近づき風が吹く。遠くで雷鳴。徐々にこちらに向かってきている。 厚く覆われた雲が光った後に、細いすじが空を割る。 ポツポツと落ちてくる雨粒が次第に大きくなり、廊下の窓を叩き出した。 「今日の天気予報ハズレたね。雨の予報だったけど、ここまで強く降るって言ってなかったよね」 「うん、凄い雨。でも折りたたみの傘あるから大丈夫かも」 「折りたたみ持ち歩いてるの? 偉い! 部活終わるまでにはやんでて欲しいけど。やんでなかったら学校まで迎えに来てもらわなきゃ」 「駅まで走るの大変だし、びしょ濡れになるのは嫌だよね。本当、やんでるといいね」   憂鬱な雨の会話をしながら玄関近くまで来ると、友達が手を振りながら体育館へと向かって行く。それを見送りながら鞄から折りたたみの傘を出し開いた瞬間、呆気にとられた。 「嘘でしょ?」   傘に大きな穴が開いて破れていた。まるでコントだ。 用をなさないそれを眺めながら、どうしたものかと玄関に佇んでいると、隣でボンッという音。 少し驚きながら音のした方に視線を向けると、同じクラスの高森君が大きめの傘を開いていた。そして私の手元をチラリ。 はたとその視線に気づき、恥ずかしいと思いながら破れた傘を急いでしまう。   「三和さん一緒に入っていく? 確か方向同じだろ。駅まで入っていけばいい」 そんな事を言われるとは思いもよらず、戸惑う私。 「そんな傘じゃこの雨はしのげないし、差したところで恥ずかしいだろ。ましてや、その状況を無視して自分だけ帰るのは気が引ける」   私の悲惨な状況を見て発した言葉に顔が熱を持つ。 でも、ただ行き先が同じというだけで、素直に首を縦に振る事は出来なかった。 傘の下はある意味『二人きり』という特殊な空間になる。 肩を寄せ合い、互いの手が触れあうか触れあわないかの距離。 顔は知っているものの関わりの少ないクラスメート。 そんな人と駅までの時間を過ごす事に抵抗を感じた。 嫌だからとかそういう理由ではない。 彼氏でもない男の人と相合い傘というシチュエーションに耐えられない。 密閉された空間にいるような感覚に耐えられない。 だって、高森君の外見が綺麗すぎる。隣に並ぶのがためらわれるくらい。 外見ハイスペックな彼の隣に並ぶなんて、心臓が悲鳴を上げる。 だから、簡単に決心なんてつかない。
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