人生の喜劇

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人生の喜劇

 いつものように私は学校へ登校。学校では儷留(れいる)さんの話で持ちきりだった。儷留さんとは、獣人のお嬢様。獣人とは、獣の耳が生えた人のこと。儷留さんといえば、頭脳明晰、容姿端麗、運動神経バツグンの超スーパーガール。さらりとした長い焦げ茶色の髪の毛に、ふわふわとした薄橙色の獣耳。顔立ちは整っていて、足もすらりとしていて長い。学園の人気者である。 「キャー!」「うわぁ!」 下駄箱の方から生徒の驚く声が聞こえる。どうやら儷留さんが来たようだ。 「ごきげんよう。」 そうそう、声も高くて綺麗だ。私が声に聞き惚れていると、儷留さんが気づいたようで、微笑みながら軽く頭を下げてくれた。なんて優しい人だろう。そのままボーッとして立っていると儷留さんのまわりには人の渦が出来ていて、見事に儷留さんを囲んでいる。あっという間に私は儷留さんから引き離されてしまった。  儷留さんが歩けば、自然に人が集まる。それは休み時間や掃除のときも一緒だ。お弁当の時間なんて、 「儷留さん、私と一緒にたべませんか?」 「いやいや、私と一緒に!」 「何言ってるの、私よ!儷留さん!ね!」 と、儷留さんの取り合いをする。そんな喧嘩の間に、儷留さんはどこかへ行ってしまう。学校一の人気者でもあるが、学校一謎な人でもあるだろう。  まあ、私には関係ない話だ。儷留さんと違って、私は友達0人、お弁当を一緒に食べる人なんて今まで一人もいなかったし、口を開けば愚痴をペラペラ、ペラペラ。儷留さんとは対照的な悪魔であろう。  そして、いつものようにお弁当をパクパク食べる。話す友達なんていないので、休む暇もなく。だが、ふと違和感を感じた。どこかから視線がして…。ドキドキしながら横を向くと、そこには儷留さんが。ビクッとして、私の体は固まった。そして、私の口より先に儷留さんの口が開いた。 「お弁当、一緒に食べないかしら?」 と言って、綺麗に包まれたお弁当箱を出した。 「え、でも…」 私は後ろを確認した。でも、あいにく誰もいない。 「嫌…かしら?」 不安そうに儷留さんが言うと、私は考えるより口が先に開いた。 「そ、そんなわけないですよ!よ、喜んで!」 と、なぜか言ってしまった。私が言ったあとに、儷留さんはにっこりと微笑み、私の隣の席に座った。儷留さんがお弁当箱を開けると、いかにも高級食材を使ったような、超高級レストランで出るようなメニューだった。やっぱりお金持ちだな…と、苦笑いをする。すると、儷留さんがいきなり 「えーと、名前、何でしたっけ?」 と聞いてきた。 「リ、リノヴァです。」 「リノワ?」 発音が違う。でも、初見はみんなこうだからしょうがない。 「発音がちょっと…」 「リノワァ?リノア?」 どれも違う気がする。私が多分困った表情をしたので儷留さんが、 「リ、リ、リノヴァ?言いづらいわね。やっぱり呼ぶときはリノワで良い?」 え、えーと… [名前とは違う名前でよんでもらう=あだ名]……。 あだ名ぁぁぁぁあ!?!?!? 「嫌だった?」 と、儷留さんが言った。 「………。言いづらいですよね。ならOKです。」 「本当?戸惑っているようだけど。」 「だ、大丈夫です!」 私が思ってもないことを口にしているから、自分自身がびっくりしている。 でも、儷留さんはリノヴァなのにリノワ、と呼ぶことに戸惑っていると思っているに違いない。でも、私はそんなことは気にしていない。一度もあだ名で呼ばれたことなんてないのに、しかも、学校のアイドル・儷留さんに。これでもう私の精神が崩壊しかけている。ところで、ひとつ気になった。儷留さんはファンがあんなにいるのに、なぜファンの人ではなく独りぼっちの私と一緒にお弁当を食べているのだろうか。 「あの…儷留さん。儷留さんってファンの方がいますよね。」 「ファン?まあ、ファンなのかな?」 「じゃあ、何でファンの人と一緒にお弁当を食べないのですか?」 こんなこと聞いたら失礼だけど。 「…。私、お弁当はおいしく食べたい。」 「へ?」 思いもよらない言葉が聞こえた。 「私、人の心が大体読めるの。それで、あの子達の心を少し読んでみたら、『儷留さんと一緒にいれば自分の地位があがる』『儷留さんと仲良しになりたい!だってなれたら私もアイドルだ!』って欲がたくさん。」 「…………。」 「私を人気者になれる機械にしてほしくないし、あんなに心に欲を抱えた子達とお弁当を食べたらおいしくない気がするの。」 知らなかった。儷留さんがこんなに悩んでいるなんて。儷留さんは友達やファンがたくさんで、悩みひとつ無くて、私と対照的で…。でも、悩みがあったんだ。 「リノワ。」 いきなり私の手を握った。突然の出来事にびっくりした。 「私、あなたと一緒にいたら楽しい気がするの。だから、これから会いに行くわね。」 「へ!?」 あまり理解ができなかった。 「待って、儷留さん…」 「あら、もう時間だ。それじゃあね!リノワ!」 儷留さんは自分の教室へ走り出していった。それを理解するのに大変な時間がかかった。
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