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そのままポケーっとして五、六限間目を過ごし、さて、帰るぞ、なんてときに神様は意地悪をするのか。そのまま、自分の靴紐を踏んで大胆に転んだ。しかも死ぬほどダサい転び方で。ああ、人生終わった…と、思いかけたときに、そっと私にさしのべる手が。
「大丈夫ですか?」
天使のような美しい声、雪のように白い手。これは儷留さんだな。聞いたらわかる。頭をゆっくり上げると、ほらやっぱり。こんな声出せるのは儷留さんくらいしかいないよ。
「随分と大胆に転びましたわね。」
ふふふと静かに笑う。ああ、やっぱり儷留さんは何をしても美しい…。
「リノワ。そろそろ立ち上がらないのですか?」
「ふぇ?」
儷留さんの美しさに浸っていたら立ち上がることを忘れていた。慌てて立ち上がる。もちろん儷留さんの手は握らない。いや、私みたいなやつが握ったらダメでしょ。
「キャー!儷留さん!」
「こっち見てー!」
儷留さんが下駄箱に行くと、やっぱり出待ちのファンでいっぱいだった。儷留さんの歩幅にあまりついていけず、遅れた私に視線が集まる。
「その女の子はだあれ?」
「本当だ!もしかして友達?」
私を見た途端に皆が噂をし始める。でも、ファンでもないやつが友達だったらさすがに怒るだろう。
「ファンでもないやつが儷留さんの友達なんておかしいと思いますー!」
「そうよ!そうよ!おかしいわ!」
「私たちの方が何億倍も儷留さんが好きです!」
予想通り、下駄箱は態度の悪い人の記者会見並みにブーイングが出た。私が言い返す暇もなくブーイングが続くので、黙っていると、儷留さんが私の前に守るようにして手を出した。
「あなた達が指図する必要もないし、私はこの子と一緒にいるとあなた達といるときより楽しい。これは私が決めたことだし、あなた達が言う必要は無いじゃない。」
儷留さんの言葉に鳥肌がたった。でも、これで儷留さんは全ファンを敵にまわしたんだ。
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