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「断る」  そう言うと、よく作り込んだ化粧をした女は黒々と長い睫毛を伏せた。 「……そう」 「どうしてか聞かないのか」 「なんとなく、海棠君ならそう言うんじゃないかと思ってた」  その時の女には迷いがあった。触れなくても分かるくらい心が揺れている女になど近付きたくなかった。  けれどそのまま放り出して行くことも出来ず、なにか声をかけてやりたくて見ていると、なんとなく納得した。  怖いのだ。俺という欲求の捌け口、あるいは逃げ場を失って、ひとりの相手とだけ向き合うことになるのが。  女は顔を上げた。 「今、気持ち読んだでしょ」 「読まなくたって顔に書いてある。……どうすりゃいいのかも自分で分かってんだろ。捨てる男これ以上頼んな」  ありがとう、と女は言ったが、そうじゃない、と俺は心の中で思った。寂しさや怒り、その場の感情に任せて抱くのさえ恐ろしいほど、俺は他人の心も自分の心も、怖いだけなんだ。
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