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ふっと離れた、相変わらず怒ったような彼の顔を茫然と見つめた。
「少しは他人じゃねえって思えるだろ。こうしたら」
「……それだけですか?」
「……それだけ、ってなんだ」
自分でもなにを言いたいのかよく分からなかった。
元をたどれば、あたしが川村課長からの電話に出たくないと言ったからで、もともと彼は自分があたしを追い詰めたと思って責任を感じて来てくれただけで。
他人といえば他人なのだから、家に泊めたって同じ部屋には寝ないし、指一本触れない。当たり前だ。
でも、だったら早く帰るってこっちが言うんだから、そのまま帰せばいいのに、なんでキスとか今になって。
「あたし、分かりません。海棠さんがあたしをどうしたいのか。あたしは、どういう態度で居ればいいのか」
それは彼にとって意外な発言だったようで、真顔でじっとあたしを見つめ、独り言のように呟いた。
「……それは、そうなるよな。……こっちが距離とっておいて、遠慮するなっても訳分かんねぇよな」
「……え?」
「ちょっと、こっち来い。椅子だと話しにくい」
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