1/2
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ

 四月末、連休前に城田を含めた数人の歓迎会があった。酒の席は好きでないので仕事にかこつけて逃げるつもりでいたが、出る予定だった同僚が、子供が熱を出したとかで早く帰らなければならなくなり、結局行かされるはめになった。 「……あー……ったりぃな」  ビルの非常階段に座り込んで煙草をふかしていると、その辺の不良と変わらねえな、と自分で思う。  酒も、酔った人間と話すのも好きじゃない。そういう人間が集う場所も嫌だ。  元々人ごみ自体が……と三十路の男がぼやいても仕方ないのは分かっている。  人の中で生きて行くには妥協しなければならないこともある。   双子の弟は実家の寺を継いで住職を務めているが、じゃあ代わりにそちらが出来たかと言えばその方がもっと嫌だ。   毎日毎日葬式に法事、人の悲しみと涙に向き合ってそれを慰めてなど俺には出来ない。  煙草二本を吸って腰を上げ、非常階段のドアを開けると 「わっ」 と間近で女の声がした。城田だった。 「……なんだ。こんなところで」 「……お疲れ様です。海棠さんは?」 「俺は煙草。喫煙所がねえから」 「あ。……すいません。びっくりして」 「城田は。まさか煙草じゃねえだろ」  そう言うと、彼女は酒で少し上気した顔を曇らせる。 「……せっかく歓迎会開いて頂いてるのにいけないと思うんですけど、……ちょっと外の空気吸おうかなって……すいません」 「別に謝らなくていい。疲れたなら席外して休めばいいけど、そこはやめとけ」 「え?」 「男はいいけど、女ひとりでそんなとこに居て、タチ悪いのに絡まれたりしたら困るだろ。外出るなら下行け」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!