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「チビ共の言う通り、わしらは桜に取り憑く虚を祓っておる。昔は一人前と認められてようやく人の世に出たもんだがな。人間が急にあっちこっちに桜を植え始めたもんだから、こんなチビも駆り出ださねぇと間に合わん。全く困ったもんだ……」
子供達のキラキラ輝く笑顔を前にしたらお小言も引っ込んでしまったらしい。お爺さんは溜息をつくと、今度はぶつぶつ愚痴を言い始めた。
私は愛想笑いを浮かべて頷くしかない。花見が庶民に広がったのは江戸時代あたりだったっけ? そこから桜が増えて、ソメイヨシノが生まれてからは爆発的に広がったんじゃなかったかな。
彼らの言う『虚』というものが全ての桜についていて、かつ祓わなければならないものなら……突如として各地に増え、さぞかし困ったことだろう。
労りと感謝の気持ちを込めて、私は頭を下げた。
「いつもありがとうございます」
「ふん、仕事だからな。もういいだろう、わしらはまだまだ仕事が残っとる。ほら、さっさと行った行った。こんな所に長居して間に合わなくなっても知らんぞ」
「あ、はい。ありがとうございました!」
再び頭を下げると、子供達は「はーい、いってらっしゃい!」と手を振ってくれた。思わず笑顔になって振り返すと、更に元気よく振り返してくれる。
可愛いアヤカシの子供達に見送られ、私は再び歩き出した。
それにしても、間に合わなくなるって何が?
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