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僕とお姉さん
雨が降っている。風も吹いている。そのせいで、僕は古びた大人用の骨の折れているビニール傘を担ぎながら、自分の家に帰った。
風もあったせいで僕はびしょ濡れになってしまった。くしゅん、とくしゃみをすると、玄関の鍵を開けた。古い木造のアパートで、昔住んでいたマンションとは全く違う。ギシギシと音をたてながら扉が開いた。
「ただいま……」
小さく僕は言うと、リビングの向こうから母と知らない男の人の声が聞こえる。
知らない男の人がいるときは僕はお母さんに声を掛けたらダメだと言われている。ぐう、とお腹がなると、ランドセルをキッチンに置き、冷蔵庫を開けた。
……中には缶ビールと、枝豆しかない。
僕は冷蔵庫を閉めると、濡れた身体を拭こうとお風呂場に行ってバスタオルで身体を拭いた。
バスタオルを羽織ると、僕はぐしょぐしょのスニーカーを履いて、外へ出た。
骨の折れたビニール傘を持つと、アパートを出た。一階には洗濯機が雨ざらしになっていて、ガコンガコンと回っている。
僕はそれを一瞥すると、歩いた。空は夏の夕方前なのに、もう薄暗い。
僕はとぼとぼと歩いて、近くのコンビニへ向かった。
「いらっしゃいませ」
コンビニの前に立つと、自動扉がひゅっと開いて、店員さんが声を掛けてくれた。傘は傘立てに置いておいた。他にも傘が沢山並んでいた。
僕はコンビニの中に入ると、おにぎりのコーナーの前で止まった。
――鮭のおにぎり、おかかのおにぎり。
お母さんがお父さんと一緒に暮らしていたとき、よく作ってくれたもの。
もう今はコンビニに来ないと見ることができない。
僕はポケットから小銭を取り出した。
52円……。
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