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「ね? 大丈夫だから」
お姉さんはまた水筒からお茶を注ぐと、僕にコップを渡した。僕はおにぎりを右手で持ったまま、左手でコップを受け取ると、そのお茶を飲んだ。……温かい。
僕はまた涙がこみあげてきた。僕はわあっと泣き出してしまった。
お姉さんが困った顔をして、僕の方を見る。
「大丈夫? 私で良ければ何があったか聞くよ」
そう優しいお姉さんの声がすると、僕はおにぎりを全部口の中に入れ、顔を拭った。
それから、嗚咽が止まるのを待つと、僕はお姉さんに話出した。初めて会ったお姉さんなのに、なんでか、僕は喋り始めてしまったんだ。
「い、家に、知らない男の人がいて。僕のお母さんがいつも知らない人を家に連れてきていて。僕、家にいたくなくて。お父さんがいなくなってから、お母さんはおかしくなっちゃって。ご飯も、家では食べられないの。給食があるから、お昼は食べられるんだけど、お腹すいてもお金もないし、お母さんに言うと、怒られるし。もう僕どうしたらいいかわかんなくて」
僕はそこまで言うと、コップのお茶をまた飲んだ。それからコンビニの袋の中から、おかかのおにぎりを取り出すと、それを食べた。
お姉さんは僕の羽織っていたバスタオルで僕の顔を優しく拭った。
「……そっか。辛かったね。名前、なんていうの?」
「……桐原空」
「ソラくんか。私は、二宮鈴だよ。高校二年。ソラくんはいくつ?」
「小学四年生。九歳」
「九歳かあ……。私がまだここに住んでたときだ」
「え? ここに? ここ、コンビニだよ?」
僕がおにぎりを咀嚼しながらお姉さんの方を向くと、お姉さんは雨のしとしと降る空を見上げながら、
「うん。ここ、昔、私の家が建ってたところなんだ」
「そう、なんだ。昔はお姉さんのおうちだったんだ」
「そうだよ。だからね、何も用もなく、コンビニにいるの」
「じゃあ、いつもここにいるの?」
僕はおにぎりにかぶりつくと、お姉さんは僕の少し濡れた頭を優しく撫でると、
「うん。だから、何かあったら、ここでお話しない? おにぎりくらいなら私、買ってあげれるから」
「うん! 僕、またお姉さんに会いたい! あ、でも、お礼しないと……」
僕は困って俯くと、お姉さんは笑って、
「大人になって、覚えてたら、お姉さんにご飯ご馳走してくれたらいいよ」
「本当? それなら、僕出来ると思う!」
「そっか。じゃあ、私も頑張って、生きるから」
そう言うお姉さんはどこか悲しそうで、でも、目はとてもキラキラしていた。
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