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「…」
質問自体は理解はしているだろう。しかし返答がない。
「わからないということですか」
インタビュアーは足早に結論を求める。
「はい‥」
再び会場がどよめく。
「う‥」
会場のどよめきが向こう側に伝わったのか、それは少し怯えた様子だ。
インタビュアーが無言で取材陣に目配せをし収めさせた。
「どの様な場所か教えてもらうことは可能ですか。何かが近くにあるなど教えていただけませんか」
「綺麗な所です。でも見覚えがないです。幻覚を見てるような感覚です。そうですね。草、鯨、川‥それから見たことない物がいくつか」
「説明していただけますか」
「うーん。実体というよりかはイメージに近い。何だか言葉で表せないですね。うーん。なんというか、血管隅々まで楽しさで溢れていて、でも少し気持ち悪くて、トマトのように赤いけど絵の具を混ぜたみたいに汚い色をしてて」
訳のわからない言葉を羅列する。
しかしその一言一句も宝と言わんばかりに、記者たちは筆をすすめる。
「次の質問を良いでしょうか」
「ちょっと待って下さい。突然一方的に次から次へと何なんですか。僕の質問にも答えてください」
「もちろんです」
「そちらはどうなっていますか」
「えーとですね。あなたを中心に右手に私。その周りを取り囲むように記者が居るような感じです」
「何故そのような事になっているんですか」
「それもこれもあなたのお話を聞きに来ているのです。おそらく皆さんそうだと思いますよ」
「…」
恐らくそれができている状況把握は2%にも満たないだろう。
言葉が詰まるそれ。
「質問を続けさせていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、はい。また後で質問してもよろしいですか」
「もちろんです」
ラジカセの向こう側からは大きな溜め息が聞こえる。
「いつからそこにいらっしゃったのですか。またはそこにいると自覚なされたのはいつからでしょうか」
「今です。あなた、いやあなた方から声をかけられてからです」
「何故そこにいらっしゃるのでしょうか。知り得る限りの範囲でよろしいのでお答えください」
「全くわかりません」
「その場所にご自身がいらっしゃることに疑問はお有りでしょうか」
「はい」
三度会場がどよめく。
そして次の質問でインタビュアーが核心にせまる。
「ご自身が亡くなられたのは自覚されていらっしゃいますか」
「!!!…」
返事がない。
ラジカセは無音になる。
恐らく向こう側では様々な葛藤が起きているだろう。そう予測するしかできなかった。
流石のインタビュアーもこればかりは待つしかない。
5分経ったかというところ、向こう側から返事が来た。
「知ってたんだと思います」
「というのは」
「思い出したというかなんというか。あなたの言葉で自覚しました」
「よろしければ今の心情の方をお教えいただけませんか」
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