第135話 百年越しの手紙

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第135話 百年越しの手紙

 御札に触れた蜜柑の脳裏に、華やかな和装の女性が浮かびあがった。過去の投影であり、夢幻の如きもの。その女性が蜜柑に気付いて、などということがあり得るのか。しかし、明らかに見られているとわかっての動きで、さらさらと何事か和紙に書きつけ、それを差し出すようにした。同時に視界が薄れ、はっと気付くと、もとの古い屋敷だ。様子を見守っていた佳乃が声をかける。 「どうしたのです? 何を見たの?」 「お、おおう、佳乃か。いや、御札に残る記憶を見ておったら、向こうから見返されたような気がしてな。綺麗な女子(おなご)はんで、書き付けを見せてきた。それには……」  こう書かれていた。 『佳乃へ。息災(そくさい)で。我が子らを頼みます』 「わたくしへの……」 「手紙なんやろか。わてにも、ようわからんけど。百年越しの使命か。厳しい主はんやな」 「いいえ、わたくしを信じて任せていただいたに違いありません。先ほどは蜜柑のせいで後れを取りましたが、以後、決して!」 「しれっと人のせいにすんなや。まあ、ええけど。ほんで、結局、息を吹き返した音なしの欠片(かけら)はどうなったんや?」 「龍穴の奥に潜み、気脈から力を取り込んできたのでしょう。いつ這い出して来てもおかしくない。神辺の地の気脈は、霊湯となって溢れだしているのです」 「「それって……?」」  と声をそろえる美琴と葛音に向かって、佳乃が頷いてみせた。 「きみの湯です」
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