第136話 異変

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第136話 異変

 なぜ眠りについていたのか、百年前に何があったのか、ようやくすべてを思い出した佳乃である。前の主が討ち倒した音なしの欠片(かけら)が、きみの湯の地下深くに眠っているのだという。 「最後の一欠片(ひとかけら)が龍穴に潜み、この百年、誰にも知られず、力を蓄えていたのです。高島承之助のことも気になります。きみの湯が心配ですから、早く戻りましょう」  そのころ、月子さんが番台を務めるきみの湯において、ある異変が起きていた。  地下深くから源泉を汲みあげるポンプが詰まりがちになっていたのだ。あら、おかしいわね、と、がっちょん、がっちょん、無理矢理ポンプを動かす月子さんである。源泉の奥に潜む音なしが、それに合わせて、上へ下へ、右へ左へと揺さぶられていたのだが、それはまた別の話。  きみの湯のシンボルである細長い煙突に、上背のある人影が取り付いていた。長い四肢に、赤いざんばら髪を乗せたその顔は猩々面の如く。並みの人間の倍はあろう巨躯に、ぼろぼろの黒い着物を纏っている。  夕方の赤く染まり始めた空を背に、尋常でない動きでぐるぐると這いのぼり、煙突の天辺(てっぺん)まで辿り着いた。ぐっと手を伸ばすと、ぽっかりと空いた穴を塞ぐように煙突の中へと消えていく。
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