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第139話 蠱毒蠱道
燃えて消えたか、人の業
飢えて死んだか、人の業
橋のたもとで待つ者は、
鬼か、神か、幻か
さあ、立て、歌え、舞い踊れ
死出の旅路を華やかに
燃えて消えたか、人の業
飢えて死んだか、人の業
暗く寒い場所で目覚めた佳乃が最初に気付いたのは、奇妙な節回しのまじない歌だ。人を不快にさせる音律が繰り返される。すらりとした長身の女性が、ゆらりゆらりと舞いながら歌う。OL風のスーツにセミフレアスカート姿で、なおさら異様の感があった。
虚空に迫り出した木造りの舞台に立つ女性のシルエットは、光の加減か、舞い方のせいか、首から上が無いように見える。だが、実際にはそのようなことはなく、歌い終えた女性が佳乃のもとへ。身を屈めて、テーブルに置かれた鳥籠に視線を合わせ、中の佳乃に向かって気の毒そうにいう。
「御免なさい。どうしても貴女を連れて来いと」
「あなたは……」
「高島承之助に仕える者です。名はありません」
「あなたも式神なのですか?」
問いかけに頷いた女性は普通のOLにしか見えず、なにか違うような気がしながらもその中身がわからない。佳乃が首をひねっていると、背後から、ぐらりと鳥籠を持ち上げられた。
「会うのは初めてだね」
声をかけてきたのは、一見すると草臥れたサラリーマン風の男で、高くもなく、安くもない並みのスーツに身を包んでいる。この男こそが、八咫烏の式神使い、高島承之助だった。
「佳乃といったか。ちょっと協力してもらいたいことがあってさ」
「有無を言わさず拉致してきて協力とは、よく言いますね」
「はは、それはまあ言葉の綾だよ。実のところ、きみに選択の余地はない」
言って、鳥籠を持ったまま舞台の端まで来ると、そこから無造作に投げ落とした。ゆるりと落下した鳥籠は底に達し、がらんがらんと音を立てて転がる。あちこち体をぶつけながらも気丈に身を起こした佳乃に向かって、長く大きな腕が伸びてきた。
一面に白い毛が生えた腕で鳥籠を掴み、ばきばきと砕いたのは外法童子だ。並みの人間の倍はある巨躯に赤いざんばら髪、ぼろぼろの黒い着物を纏って、猩々面の如き顔には感情らしきものは見えず。
へしゃげた鳥籠の隙間から逃げ出した佳乃は、前後左右、果てのない空間に立ち、さきほどの舞台が、はるか高みに浮かんでいることに気付いた。遠く舞台の方から、高島の声が聞こえる。
「どうだね。それは外法童子という。とある人形塚から掘り出した鬼の腕と女の髪を使って仕上げたものだ。いやはや、女の呪いは恐ろしい。子々孫々、末代に至るまで恨み尽くさんかとよ。
きみの果たすべき役割は、外法童子の餌となることだ。今生に、きみほど強力な式神はいないからな。蠱毒蠱道は知っていよう。蟲の代わりに式神同士に殺し合いをさせ、その力を高めるのさ。せいぜい生き永らえてみせるといい。もっとも外法童子は、何度でも蘇るがね」
言い終えると、何もない空間に朱色の橋が現れた。橋の奥に外法童子、手前に佳乃だ。かたかたと、からくりじみた動きで外法童子が這い寄り、白い毛に覆われた腕を伸ばしてくる。ふいと立ち込めるのは腐った溝川のような匂いである。
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