第154話 KDF

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第154話 KDF

 復活ライブの日は、クリスマスイブと決まった。音なしが動き出すのがその日であるという。  話は、少し前にさかのぼる。その日、高島が五郎の部屋を訪ねてきた。本人の意思とは関係なく、作戦本部として使われているのだ。面白がって「神辺防衛軍 KDF」と看板まであげさせられている。なお非公式の組織ゆえ、部屋の使用料は支払われていない。が、そんなことはどうでもいい。  早希の魂が宿る式神と、鬼神とも橋姫とも呼ばれる外法童子とを連れて訪ねてきた高島が、 「見てもらいたい物がある」 と切り出した。 「いいですけど、どうして俺の部屋なんです?」 「そりゃあ、KDFの本部だからさ」 「Kanbe Defense Forceですか。千里さんが面白がって言ってるだけでしょう? そんなローカル防衛軍、必要ありませんよ」 「かかかか、必要なのだから仕方あるまい」  と外法童子が笑う。白無垢姿の艶やかな黒髪の美人だ。手のひらサイズで、黒光りする両眼と、二本の角が際立っている。対して、同じく手のひらサイズの蜜柑と佳乃が、 「わては、いつでも出動できるで!」 「はぁ、単純なんだから」 とのやりとりである。佳乃はいつもの着物姿だが、蜜柑の方はKDFとロゴの入った制服っぽい格好だ。美琴にねだって作ってもらったらしい。 「美琴様の手を(わずら)わせて。ライブに向けた練習でお忙しいのだから邪魔しちゃだめよ。葛音様と新メンバーとして参加されるのですからね」 「それは知っとる。わても新メンバーやし」 「あなたはジジと同じ、マスコットでしょうが」 「いやいや、ライブの告知動画にも出演して、愛らしいくまのマスコットとして好評なんやで」 「その動画の件だ」  割って入ったのが高島で、あっちへ飛び、こっちへ飛びする話題をようやく捕まえた。 「告知動画は、あちこちでコピーされ、リンクを張られたりして拡散されている。先日の不思議の歌とも(ひも)づけられているらしい」 「千里さんの歌ですね」  と五郎が応じる。「地震と爆発のニュースの影で、ネット上の話題になっていたとか」 「そうだ。誰かが千里の歌だと気付いたのだろう。ライブ告知動画と合わせて、かなりの再生数を稼いでいる。それ自体は喜ばしいことだが、まあ、とにかく見てもらおうか」  高島から見せられた動画は、それぞれバージョン違いの告知動画だった。別段、変わったこともない。ただ、本編が終わって普通なら気付かないような部分に、ざざっとノイズのような映像が流れていた。 「いずれの動画にも、おかしなノイズが入っている。それぞれ違った形でだ。このノイズを切り取って静止画像にしてみると」  と、複数の写真を並べてみせた。  一枚一枚では意味をなさないが、コマ送りのように連続した画像では、幼い少女が(うつむ)いたままこちらに近付き、何事か(しゃべ)っているように見える。その言葉は聞き取れず、最後に持ち上げた少女の顔は、獣のそれであった。
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