第155話 くだんの予言

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第155話 くだんの予言

 奇妙なコマ送りの画像で、近付いてくる獣面の少女が何事か口にする。口元は人のそれであり、美琴に唇を読んでもらったところ、どうやら少女は、  い、ぶ、に、ほ、し、が、お、ち、る と語っているらしい。 「これは、くだんの予言だ」  画像を持ち込んだ高島がいう。「クリスマスイブに、音なしが復活を遂げて街を呑み込む。そう警告しているに違いない。予言であり、警告でもあろう」 「具体的に何をすれば?」  五郎の問いかけに高島が答える。 「人を集め、その力を借りるのだ。きみに取り憑く温州蜜柑は無尽蔵の器なのさ。よほど強い想い、無念、穢れから生まれた(まが)つ神なのか、尋常でない力を持つようだ。そしてまた、きみ自身も様々な因縁の元にある。音なしにケリをつけるのは、きみたちだよ。とにかく、いまは一人でも多く人を集めることが大事だ」 「しかし、多くの人を集めて、もし、音なしを滅せられなければ……」 「無数の人死にが出るだろうね」 「そんなこと!」 「ないようにしてくれ。まずは神辺市へ落ちてくるのだろうが、それで終わりとは思えない。ここで完膚なきまでに叩きのめし、滅してやらねばならん」  かくして、復活ライブの日はクリスマスイブと決まり、着々と準備が進められていった。会場は神辺市西区の外れ、海に面する総合商業施設、カンベランドスター内である。  いくら人気のバンドだと言っても所詮はインディーズに過ぎないBlack Cats Geminiの復活ライブに、そんな会場を抑えられたのは大家の婆さんのコネと高島の財力によるところが大きい。また会場いっぱいの客が動員できたのはネットの反響が大きかった。加えて、関係者それぞれの呼びかけにより、会場には多種多様、雑多な客層が見てとれた。  元々のファンに加えて、高校生や大学生、会社員まで、さらに中国系をメインに外人さんの姿もある。いわゆるオタクっぽい集団もいれば、一見して堅気でない集団もあり、傍目にはどっちがどっちかわからぬが、極道連中と刑事らも入り混じって不穏な空気が漂っていた。殺伐としたクリスマスイブである。  一触即発の張り詰めた雰囲気を、頭上に落ちかかる重苦しい圧力が否応無しに高めている。触ることも、見ることも、聞くこともできない。ゆえに音なし。だが、誰もが漠然と不吉なものを感じ取っているのだろう。肌に纏わりつくような不快さがある。  暗い面持ちでステージを見つめていると、不吉さも不安も不快さも、まるで意に介さず、陽気な温州蜜柑の登場だ。新生ロックバンド、Black Cats Geminiの広告塔としてネット動画にも出演中。でしゃばり、目立ちたがりの蜜柑は、ライブの演出に紛れて、姿を隠すこともなくステージに出ていた。  手のひらほどの大きさしかないはずで、ステージへ出たところで聴衆にも見えないかと思いきや、五郎が驚いたことに、蜜柑は着ぐるみサイズになっていた。それも、少しずつ大きくなってきている。
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