第160話 メテオストライク

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第160話 メテオストライク

 真冬の空に、無数の紙が舞う。  色とりどりの千代紙からオフィスのコピー用紙、広告、葉書、包装紙、企画書から役所の届出書まで。ありとあらゆる紙が、アパートから、一軒家から、ビルから、店頭から、路上から、生き物のように舞い上がった。ライブ会場周辺の空を覆い尽くし、渦を巻いて宙を疾ると、重なり合って大きな一枚の紙と化し、落ちてくるものに沿い、形と境を与える。それは、街ひとつを影に納めるほどの大きさで、隕石のような形を露わにしていた。  い、ぶ、に、ほ、し、が、お、ち、る。  との予言を思い出しながら、やけくそ気味の蜜柑が雄叫びをあげた。天空を支えるアトラスを思い、音なしを受け止めようとする。  空に手を伸ばした蜜柑が、さらに、むくむくと大きくなっていく。ライブ会場の客から、またネット動画で視聴中の人々から力を集めているのだ。神辺市に隕石が現れたとの話がネットに上がり、どんどん動画が拡散され、蜜柑の力も否応なしに増していった。  蜜柑は展望台より大きくなり、ステージ裏では立っている余裕もない。ざぶりと海に入って、迫り来る隕石じみた音なしを受け止めた。本物の隕石と違って速度がないのが救いだが、音なしと蜜柑とは、ホワイトベースとガンダムくらいの差がある。 「うぬぅ、負けへん、負けへんでぇ!」  熱血キャラと化した蜜柑が天空の重みに耐えて、耐えて、しかし、がくりと片膝をついた。巨大な隕石の端が斜めになり、運悪く、そこにあった建物を破壊してしまう。 「このままでは潰されてまう。なんぞ応援を。わてへの応援メッセージとか動画に入ってないんか」 「えと、メッセージ、メッセージ……」  配信中の動画を確認して、五郎がいう。「えーと、最近のCGはすごい迫力、立体映像かな、って応援じゃないな。なになに、家が潰れた、ローン残ってんだぞ、どうしてくれるんや、だって」 「んぐぐ、なんでわてが(いわ)れなき非難を。いまこそ助けがいるというのに」 「ふふん、お困りのようじゃないか」  しれっと動画の中で返事をしたのが、Black Cats Geminiのボーカルだ。夏野千里が、配信中の画面に向かっていう。 「さあ、良い子も悪い子も、熱い奴も冷めた奴も、みんな聞いとくれ。うちのマスコットが大ピンチだ。  巨大な隕石が神辺市に落ちて来てるんだぜ。動画を切って、貼って、コピって、どんどん拡散してやってくれ。そうすりゃ、きっと面白いことが起きる。さらに、手拍子に足拍子、声を合わせて応援してやろう。画面の向こうでも是非やってくれよ」  ドラムスの里奈、ギターの省吾、ピアノの美琴、ベースの葛音、全員と頷きあう。力強い歌声が響き、手拍子と足拍子と、その高まりにつれて蜜柑の体がどんどん大きくなり、まさにアトラスよろしく隕石じみたものを受け止めてみせた。
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