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第164話 終幕
音なしとの死闘〈?〉を終えて、ライブ会場へ戻った五郎と蜜柑がステージ裏で待っていると、スーが声をかけてきた。
「ライブも本当に終幕ですね。最後のアンコール曲だけでも聞きに行って来ます。すべてが終わったら、これを切ってください」
どこからどこへ繋がるのかわからぬが、金色の糸を指でつまんで見せた。微かに雪が降り始めた夜に、きらきらと光を放つ。
「この宿縁の糸を切って、終幕です」
「これが……。この糸には、どういう意味があるのでしょうか」
「さて、とても一口には申せません。と言うより、誰にもわからぬことでしょう。人と人の縁、妖と妖の縁、人と妖の縁。いずれも不思議のことにて。音なしの宿縁も謎のままでしょう。どういうものであったのか、いつからどのようにして在ったのか。時という魔術は、すべてを覆い尽くし、見えなくしてしまう」
「音なしは何を求めていたのかな」
「さてはて、もはや考えても詮無きこと。私にわかるのは、音なしを滅する、あるいは滅して救うには、この金糸を切るべきということのみ。そして、それは五郎様が相応しい」
ステージ裏に響く振動や歓声を聞きながら、金糸と縁切り鋏を手にしてライブの終幕を待った。やがて、ひときわ大きな歓声とそれに続く静かな時、スーが言うのはこの時なのであろうと金糸を断ち切ると、ふっと身も心も浮かび上がるような感覚があった。
「縁というのは不思議だな。箱を踏み潰さなきゃ、おまえと出会うこともなく、神辺市へ来ることも、ここの人たちと出会うこともなかった。だが、自分の意思で繋ぐ縁もあるはずだ。美琴ちゃんには、きちんと思いを伝えなきゃいけないよな。好きだって」
言い終えると同時に、誰かが後ろから抱きついてきた。いつの間にか周囲には、にやにやと見守る千里、里奈、将吾、葛音の姿だ。背中で頰を上気させた美琴が嬉しそうにいう。
「五郎さん、みみがきこえます!」
「え? じゃあ、さっきの話も……」
「き、きこえてません、きこえてませんから。もう一度、ちゃんと言ってください」
弾けるような笑みが、しんしんと雪の降る夜空に映え、途切れた金糸が風に揺れた。
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