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パソコンのキーボードを叩きながら……いや、どうにかしろもないだろうと思う。
あいつはまさか俺がスーツ好きだとは知らないはずだし、どうにもしようもないし。
いやいや、っていうかむしろ、そんな俺の性癖などを知られてたまるか!
「……瑞樹先輩、瑞樹先輩? 瑞樹 春先輩って……」
誰かにフルネームで呼ばれている気がしたが、スーツの妄想に忙しい俺には気にしている暇などなかった。
「……先輩、ふぅー……」
「…うん、あっ?」
突然、耳に息を吹きかけられて振り向くと、
そこには、俺のスーツの神ーー仁王寺 司が立っていた。
「ななな…なんだよ! なんで人の耳に息とか吹きかけてんだよっ!」
動揺に裏返る声に、
「面白いからです」
そんな一言とともにニッと白い歯を見せて王子様スマイルを決めるのに、それだけで課内にはさざ波のように女性社員たちのどよめきが広がった。
女たちのそういった反応になどはもう慣れているらしい仁王寺は、
「先輩、ランチ一緒に行きませんか?」と、まるで何事もなかったかのように尋ねてきた。
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