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この日は雨が降っていて、雷が鳴っていた。 「よぅし、こんなトコだな」と伊織が言うと、ナンバー2の特攻隊長でもある平野大樹(ひらのたいき)が「よしお前らっ!行くぞ!!」と言うと、バイクにまたがって去って行った。 前もって集合する場所を決めていたから、そこへ行ってしばし談笑をしていた。 「だーから、あのときこうすりゃあ良かったンだよ!」 「そういやぁ、今度クンちゃんのラーメンが食いてぇから行くか」 などと話が盛り上がっていた。 伊織が「今日はお疲れさん。ちぃっと疲れてるから、帰るわ」と言い、大樹の肩を叩くと帰っていった。 大樹が心配そうに見送ると、他のメンバーたちも次々と帰っていった。 伊織と大樹は、幼稚園の頃からの幼馴染で高校は違えどいつも一緒につるんでいた仲だった。 もちろん薬物中毒者(ジャンキー)だと言うことも知っていて何度も説得をしたが、伊織は「でぇーじょーぶだよぉ♪」と言い微笑んでいたため、遠くから見守るしか出来なかった。 伊織は父親を亡くしてから、あまり家には帰らなくなっていた。 伊織の父親はヤクザだったため近所からは疎まれていたが、とても家族思いで休みの日にはよく一緒に出かけたりしていた。 そんな父親が死んだのは、スナックで飲んでいたときに敵対していた組員の冴島憲男(さえじまのりお)に襲撃されて、死んだ。 母親は物凄くショックで、とてもじゃなかったけれど遺体確認が出来る状態ではなかったため、当時5才だった伊織が確認をしに行った。 安らかな顔で眠っているかのような顔を見ても、いまいち"死"というのが理解出来なかったが、火葬場で母親が泣き崩れていたのを見つめ、慰めていたのをたまにフラッシュバックとして現れ、それが伊織を苦しめていた。 それから逃げるように、非行に走りシンナーを吸っては気を紛らわしていた。
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