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その中で1枚毛色の違う写真が視界の隅に入った。微笑む彼女と馬鹿でかいわたあめ、そして歪な顔をして微笑む俺。昨日撮った彼女との唯一の写真。
その下に小さな文字を見つけた。
思わずしゃがみこみ写真を手に取る。食い入るように見つめると、そこには小さく震えた文字が添えられていた。彼女の字だ。
来てくれてありがとう
王子様、私を連れていって
ふと思い出す。
入院した当日、その日に決めた100回目の願い事のことを。たくさんの景色を見て、たくさんの色に囲まれて生きたいと言った彼女の願い。
「こんなことって、あるかよ……」
ぽたぽたと写真の上に水滴が落ちる。慌てて服の袖で写真を拭いた。彼女の笑顔が滲む。もう一度拭うがまたぽたぽたと水滴が落ちた。キリがない。
それなのに両手が彼女と撮った最後の写真をどうしても離してくれなかった。
いいや、泣いてしまえ。きっと彼女なら仕方のない人ねと笑ってくれるに違いない。
ワガママで強気で王女様で。いや、プリンセスだったか。そんな彼女ならきっと「でも私の願いはちゃんと叶えてよね」なんて言うんだ。
誰よりも生きたいと願っていた彼女は、誰よりも自分の終わりを理解していた。何も知らなかったのは俺だけだった。
でもこんな滑稽で無力な俺に彼女は託した。
彼女の夢を、希望を。
俺は託されたんだ。
分かってるよ。君の願いは必ず俺が叶えてみせる。だって王子様はいつだってお姫様を外の世界へ連れ出すものだ。たくさんの色に満ち溢れた、夢幻の世界へ。
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