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「これよ、これこれ! 確かにゆめかわいい……」
「ユメカワイイ……? なんだそりゃ」
原宿竹下通りから幾多の観光客を押し退け、男1人恥を忍んで買ってきた巨大な「ただのわたあめ」を彼女は目を細めて眺めている。
白だけじゃない。
ピンク、黄色、青。
男からしてみたらなんとも食欲を削ぐ色合いなのだが、彼女はその色とりどりのわたあめをまるで綺麗な美術品でも眺めているかのように、キラキラと輝く目で眺めた。
それだけで、あぁ、よかったと心から思う。女子高生にじろじろと白い目で見られクスクス笑われた時に受けた心の傷も幾分か和らいだ気がした。
白いベットの上、白いパジャマ。
その隙間から伸びた白くて細い指でわたあめを摘み、彼女はそっと口に入れた。
「ん……っ」
「どうした、しみるか?」
「いいえ、あんまりにも甘いからびっくりしたの……」
美味しい、と更に目を細めて呟き、珍しく二口めを摘んだ。近頃は口内炎が酷くほとんど食べ物を口にしていない。
「無理して食べなくていいんだぞ」
「貴方が原宿女子に混じって恥を忍んで買ってきてくれたんだもの。それにふわふわ溶けるから幾らでも食べられそうよ」
クスクス笑いながらもう一口わたあめを口にした。柔らかくてすぐにほどけてしまうだろうに、彼女は大切に噛みしめるようにわたあめを食べる。そっと目を閉じてもう一度美味しいと呟いた。
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