誤認逮捕

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誤認逮捕

 疎まれていた世界史の先生の弱点の話は、クラスの陰険派、同じゲームをする他の生徒らの間で大ウケした。その盛り上がり方はゲームも先生の存在すらも置いてきぼりにしているようだった。そして、世界史の授業の前の休憩時間に陰険派の一人が特に仲のいい数人とこそこそと笑いあっていた。その生徒はこっそりと黒板まで忍び寄り、チョークの納められたケースに向けて手元に隠していた霧吹きで水を存分に吹き掛けた。それに気づいた生徒は笑いあっていた実行犯の取り巻きだけに思えた。世界史の授業が始まった。先生は躊躇なくチョークを手にして文字を書き始める。しかし、水を含んだチョークは黒板にまともに線を残すことなく砕けた。笑いを噛み殺す実行犯の生徒が見えた。すると先生はチョークを床に叩きつけ、一人の生徒を睨んだ。それは本当の実行犯ではなく、普段から素行の悪い生徒の一人だった。睨まれた生徒は一瞬の動揺から一転、先生を激しく睨み返した。その反応で確信したのか先生はその生徒の前に歩みより数秒の激しい睨み合いの末、生徒の襟首を掴んで教室の外に連れでていった。授業中に二人が戻ってくることはなかった。
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