鬼退治

　その後世界史の授業は度々中断し、自習扱いになることが増えた。生徒と先生の揉め事は、他の教師が間に立ってもなかなか収まらず、他のクラスの授業にも影響がでているようだった。その光景を面白がる生徒の中には動画撮影している人も見られた。
　夏休みが終わり、久しぶりの登校。目にした先生の中で異様な雰囲気をした先生がいた。世界史の先生だ。少なからず白髪の混じった、それでも整えられた毛髪は、夏休みの期間に見合わないほどに白くなり、手入れもあまりされていないように見えた。表情は暗く、顔色も悪そうだ。聞いた話では夏休み中に、生徒との揉め事の動画がでまわり、臨時の保護者会が幾度か開かれていたようだ。揉め事の当事者の生徒は夏休み開け一週間たった今でもまだ学校に来ていない。世界史の担当教師が代わり、夏休み前とは全く異なる雰囲気の授業が展開されていた。内容は他の授業と同様で、クラスの大半がまともに机に向かってはいない。週明けから、揉め事を起こした先生も見かけなくなった。噂では体調を崩して入院しているらしい。僕は自宅から持ち出していた霧吹きがまだクラスに置き場なく放置されていることに気づいたけど、もう必要ないかな、とそのままにしておくことにした。僕はあの先生の吸うタバコの銘柄の残り香が嫌いだった。