凍り雨

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 聡の部屋は、病院からホントにすぐソコの近所で、駅にも近かった。 別に聞いてもないのに、聡はおれに説明してくる。 「この病院に就職が決まった時、引っ越してきたんだ」 「へぇー」  仕事熱心なんだと、単純にそう思った。 まぁ、そうか。そうじゃなきゃ、担当してた患者が退院するからって、わざわざ休みなのに職場になんか、来ないか。  おれはふと、思った。 でもさ、それってもしかして――、担当した患者みんなにやってんの? ――今日だけ、だよね?おれだけ、だよね?特別・・・だよね?  おれは聡にそう、たずねたかったが、止めた。 皆さんにだよ。と当たり前に、笑顔で答えられたら、とても立ち直れそうになかった。  もっともっと、聡に近付きたい。体も心も。でも、近付いたら何するか、自分でも分からない。 こういうのを、ジレンマって言うんだろうな。多分。なんてめずらしく考え込んでる内に、いつの間にか駅に着いてしまってた。  改札口ギリギリまでついて来てくれて、聡はおれを見送ってくれた。 「じゃあ、無理をしない程度に、自宅でもちゃんとリハビリ続けるように。分かった?それと、左足首を冷やさないように」 「・・・分かってるって」  昨日も、明日は休みで出て来れないって言ってた聡から、同じこと聞いた。 何だよ。今日朝起きて突然、見送りに来るって決めたワケ?  口ではそう言うけど、リハビリって結構、ムリするよね? おれを担当した理学療法士の中で、見た目は聡が一番大人しかったクセに、指導は一番厳しかった。  マトモに歩けるようになるまでの一週間、マジで泣きそうになったのなんて、一度や二度じゃなかった。 逃げ出したかった。本気で、逃げてやる!って思ってた。  でも、次の日にまた、聡に何でもなかったような笑顔で、頑張って!もう少し!よく出来たね!スゴイ!って言われて――、それで、そんなんで一か月間、頑張れちゃったんだよな・・・おれ。  我ながら、スゲー単純だと思う。
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