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聡はとどめを刺すように、断言した。
「それに何より、おれはせっかく就いた今の仕事を失いたくない」
「・・・・・・」
ただただ黙ってるおれの目の前で、聡は急に弾けたように笑い出した。
「あー!ホント、サイっテーっっだよな!おれって。笑える。自分で言ってて、おかしくなってきた!」
「センセイ・・・」
聡は、泣いてた。泣きながら、笑ってた。
真っ赤な目でおれをにらんで、言う。
「――こんなおれでも、好きだって言うのか?一か月以上待ってでも、付き合いたいって言うのか?本当に?本気で?」
聡はそこで、言葉を切った。
おれに顔を近付けてそっと、ささやいてくる。それはそれは妖しい、甘ったるい声で。
「なぁ?そこまでして、おれとヤりたいのか?――他にいくらでも、相手いるんだろ?」
「!?」
おれは反射的に立ち上がり、聡へと近付くと、その薄っぺらい肩をフローリングへと押し付けてた。
おれは手加減なんて全然出来なかったし、聡はとっさのことで受け身をとれなかったから、かなり痛かったと思う。
でも、おれを見上げる顔は、全くの無表情だった。あの、狂ったような笑いも、キレイさっぱり消えてた。
まるで壊れて、ポイ捨てされた人形のようだった。
おれはそんな聡の姿にも興奮したが、何とか、抑えた。
「ヤりたいよ。――すげぇ、ヤりたい。今スグ、ここで。マジで」
おれが体重は掛けたけど、体はなるべく聡にくっつけないようにした。そうしないとホントに、歯止めが利かなくなると思ったからだった。
顔をグッと近付けると、やっと、聡は驚いたように目を見開いた。
小さな喉仏が、上下するのが見えた。
「でも、今はヤらないよ。おれ、センセイのこと、ホントに好きだから。センセイを犯罪者にしたくないから。・・・待つよ。四月まで」
「和――」
おれを見る聡の目の、長いまつ毛がまた涙で濡れるのが分かって、おれは慌てて聡の体の上から、退いた。
その目にキスしたくてキスしたくて、堪らなかった。おれも、唾を飲み込む。
聡の顔をまともに見ないようにして、おれは言った。
「だから、今日はもう帰る。――傘、貸してよ」
「あ、あぁ」
聡は体を起こして、ノロノロと立ち上がった。
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