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これを持って逃げて
どこまでも、どこまでも
いつか ——— のもとへ……
いつか……きっと……
「はぁっ……! また、か」
ーー遡ること1ヶ月前、4月某日
イタリア NeRo本部 とある一室
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中。眉間に深い皺を刻み、肩で大きく息をしている相馬八雲はベットの上で目を覚ました。
広さ6畳ほどのその部屋には小さなデスクとベット、そして少しばかりの作業服、スーツがあるだけ。デスクの上には溜まった報告書が未提出のまま散乱してある。
しかし殺風景なのも仕方がない。彼は17という歳でありながら現在の組織に暗殺者として在籍している。日々の任務に忙殺され、ここは寝に帰る“ただの拠点”に過ぎなかった。
八雲は額に滲む脂汗を手の甲で拭い、深く深呼吸をした。じわりと湿った掌が夢のリアルさを物語る。この夢に起こされたのはもう何度目だろうか。八雲は汗ばむ自らの掌を眺めながらふとそう思った。
その夢は定期的に現れた。
しかしそれは幻の夢ではない。実際八雲の身に起こったことだった。何年も前に経験した出来事を未だ夢に見る。まるで八雲が忘れてしまうのを拒むかの様に。
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