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「ふあぁ……よー、お前も呼び出しかぁ? 八雲」
後ろからいかにも眠そうな声が聞こえる。振り返ると同僚のロイ・エバンスがひらひらと手を振りながら立っていた。同僚とはいっても八雲とは10も離れた年上である。
寝起きなのかいつものコンタクトではなく、やたらと大きい瓶底丸メガネをかけている。ロイの艶やかな金髪は今や見事に失われており、肩まで伸びたそのボサボサな長髪をまとめもせず、無造作に下ろしていた。まさに美男子が台無しの状態である。
八雲は再び歩き出しながら淡々と返事をした。
「酷いなりだな、ロイ」
「お前人のこと言えねぇだろ、自分の頭見たか? 鳥の巣みたいだぞ。ほんっと、人使い荒いよなぁうちのボスは。ま、俺らは少しエリザを見習うべきかもしれないな」
2人が歩みを進める先の部屋から1人の女性が現れた。彼らの同僚エリザ・ローズはロイと同じ金色をしたウェーブヘアだが、艶やかに手入れされており腰の辺りまで伸びている。小綺麗に化粧もしているようで、2人に気づくとHi!ときらめく笑顔を見せた。
「よーエリザ。エリザも呼び出しか?」
「そうよ。ボスったらやんなっちゃう、いつも突然呼び出すんだからメイクも簡単になっちゃうし⋯⋯」
「お前それ以上に塗りたくるつもりか? 後一歩でモンスターだぜ。ま、女もアラサーになると色々たいへっ」
ーーゴッ⋯⋯!
エリザの裏拳がロイの高い鼻を見事打ち砕いた音が廊下に響いた。任務続きで疲労しきった体はいとも簡単にぐらりと倒れ、背中から廊下へと吸い寄せられる。
床の上でピクリとも動かなくなったロイを助ける人間は1人もいなかった。
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