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「相馬君先程おっしゃいましたよね……なんで君はいつも人のことばっかりって。でも私の優しさなんて……全部偽善です。裏返したら全部全部自分のためです。嫌われたくなくて、もうあんな目で見られたくなくってやってるだけなんです!」
小夏は中学の時に向けられた冷たい矢のような他人の目を思い出していた。もうあんな視線で針のむしろにされるなら死んだ方がマシだと、何度思っただろうか。
「今日お昼をお誘いしたのも、お夕飯を作って持ってきたのも、あの日おめかししたのだって他の誰のためでもないです。全部相馬君によく思って欲しかったからです! 本当は嫌な子なんです、私、相馬君が仲良くクラスの方々と……女の子と話してるのだって本当は嫌でした。心の奥底ではずっと嫉妬してて、嫌だって……何度も何度も思ってました!」
これ以上言ったら本当に幻滅されてしまう。
だけれどこれ以上自分を偽って八雲と向き合ったとしても、彼には何も伝わらない。そんな直感が小夏の背中をぐいぐいと前へ押しやっていた。
「私自分がこんなにも嫌な子なんだって知りませんでした。でもっ、でもそれでも私……相馬君が好きなんです。相馬君が私のこと嫌いでもいいです。私は他の誰でもない、相馬君が大好きなんです。これだけは本当です……どうか、どうか信じてください……相馬君っ……」
最後は嗚咽混じりになってしまって、ああもう終わってしまったと小夏は嫌に冷静な心のうちでそう呟いた。
歪む視界に映る八雲の表情は彼の硬い前髪で隠されてしまって見えない。
最後に一言だけでも彼の声を聞いたら、もう全て諦めよう。そしてその声を大切に胸の奥底にしまって家に帰ろう。泣くのはその後だ。
小夏はぐいぐいと両目をこすると、握りこぶしを作って膝の上に置いた。そして八雲の声が返ってくるまで、ただただその手の甲をじっと眺めていた。
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