581人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーああなんで、あんなにうるさく鳴り響いていたのに
頭の中でガンガンと鳴り響いていた警報音がどんどん遠くなる。あんなに頭の中で何も考えられないほど、「何か」と「何か」が必死に喧嘩をしていたのに。
本音と建て前
感情と理性
何なのかは分からない。ただ頭の芯がぼぅと痺れてボケてしまうほど酷く争っていた。その向こうにある本心を必死で隠そうとしているみたいに。
華奢な体を震わせ、こんなにも涙を零している女の子を、俺は何故ただただ見下ろしているんだろう。
俺が今やるべき事は分かっている。分かっているのに、じゃあなんでこの両手はピクリとも動いてくれない?
俺は普通の男子高校生ではない。彼女とは住む世界が違いすぎる。
ーーーそんな事は分かっている
優しい彼女には銃なんて必要のないごく普通の、もっと相応しい人間がいる。
ーーーもちろん分かっている
いつか本当の事がばれてしまったら、彼女はきっと俺に幻滅する。
ーーーそうだろう
きっともうあの柔らかい笑顔も鈴が転がるような声も2度と向けられる事はない
だが、それがなんだっていうんだ。
全部全部言い訳だ。やっと分かった。結局自分が傷つきたくないだけだった。
日本に来てまだ2ヶ月も経っていない。
だけど俺は何故だかもう、彼女を失う自信がない。怖い。いつか拒絶される未来が、恐怖で塗られた彼女の瞳が自分に向けられた時、俺はきっとまともでいられない。
そう、彼女を傷つけ涙を流させたのは全て、俺の弱さだ。
ああ、駄目だな。
もう、どんなに耳を凝らしても警報音が聞こえない。
最初のコメントを投稿しよう!