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痺れてぼんやりした感覚の中、八雲の胸の内にはひとつの本心が残っていた。しかしこれが正しいことだなんて、八雲は少しも思っていない。
だけれど、嘘や正論で塗り固めた答えを振りかざして、虚勢や見栄を張って、自分自身をも偽って、目の前の彼女を無視するのだとしたら、俺はもはや人間でも男でもないと八雲は思う。
最後に残った感情は今まで感じたことのないものだった。言葉だけを知っていて、でもどんなものかは知らなかった、そんなもの。
今も本当はまだよく分かっていない。だけど恐らくこの感情を表す言葉はこれで間違いないと八雲は確信していた。
俺のために泣いてくれる彼女が
好きだと叫ぶと彼女が
旭が、
愛しくて仕方がない
もうそれしか残ってない。
八雲はソファにかけてあったエリザのブランケットを小夏にかけると小夏の腕を引っ張る。そして、自分の腕の中に強く、強く閉じ込めるのだった。
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