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「は、初めて……なのか?」
「はい、相馬君が初めてで……す……?」
「……本当に、すまない。初めてが俺なんて……なんで君は俺なんか」
「そんなこと言わないでください! 私は初恋が相馬君でとても幸せです!」
小夏は両手をぎゅうと握りしめると、鼻息荒く自信満々に胸の前で振ってみせた。
八雲は爆発しそうなほど顔を赤らめ、思わず左手で顔を覆う。指の隙間から小夏を覗き見るが、小夏はまだ熱い視線で八雲を見つめ返していた。
彼女は本当に、俺が好きなんだな。
そして、俺もきっと、もしかしたらーーー
八雲は試しにその仮説を何の抵抗もなく受け止めてみた。するとあろうことか憑き物がぽとりと落ちてしまったように体が軽くなり、なんだか腑に落ちたような気分がした。
なんだ、こんな簡単なことだったのか。
八雲は自らの馬鹿さ加減にため息をつきながら左手を顔から外すと、その仮説を胸の奥底にしまい鍵をかけた。そして、頭一つ分以上小さい小夏をそっと見下ろす。
「旭、君に何も言えなくてすまない。俺自身分かっていない事がたくさんある。でも俺もエリザもロイも君に危害を加えるためじゃない、守るためにここに来た。それは紛れもない事実だ。いつか必ず、全て君に説明することを約束する。そして」
八雲は小夏の両目をしっかりと見つめた。自然と上がっていく口角は、もう八雲自身にも止められない。湧き上がってくる気持ちと妙な自信が八雲をどんどん上へと押し上げていった。
「俺はこの命をかけてどんな敵からも君を守る。何が起きても、何が変わったとしても、これが俺の絶対だ。信じてくれるか?」
小夏はぽかんと口を開けて八雲を見つめていた。旭?と声をかけられ、八雲に頬を撫でられてやっと体が感覚を取り戻す。
もう一度ゆっくり八雲の言葉を反芻した。何度も何度も、頭の中で繰り返す。嘘じゃない。こんな嬉しいことなんてもう起きないと思っていた。
小夏は込み上げてくる嬉し涙を再び流しながら、今日一番の笑顔で何度も何度も頷く。そしてそのままもう一度、八雲の懐に飛び込んだ。
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